
実の親と暮らせない子どもを、家庭にむかえ入れて養育する「里親」。その制度と意義について、里親を支えるフォスタリング機関のインタビューとともにお伝えします。
法改正で「家庭養育」が重視されるように
「 子どもの健やかな成長のためには、特に乳幼児期は特定の大人とのやりとりを通して、愛着関係を形成することが重要だといわれています。施設では、職員が朝、昼、晩と交代で勤務するので、愛着の対象者が安定しません。だから、里親さんが必要なんです」
長く里親の支援にかかわってきた、さくらの森乳児院の増子洋一さんは力をこめて語ります。
日本ではさまざまな理由により、実の親の元で暮らすことができない子どもが約4万2000人います。そうした子どもを社会で守り育てることを「社会的養護」といいます。その養育の場所は、⼤きく二つに分けられます。ひとつは児童養護施設や乳児院などの施設、もうひとつが里親の家庭です。
里親は0歳から18歳までの子どもを、一定期間、家庭にむかえ、実親のかわりに養育する人で、都道府県の研修を修了し、児童相談所から適格と認められた人がつとめます。
欧米では、社会的養護下の子どもの大半が里親家庭で育ちますが、逆に日本では里親の数が少なく、施設で養育される子どもの割合が圧倒的に高くなっています。けれども、社会的養護を必要としているのは、大人からの愛情を強く求めている子どもたち。増子さんの言葉にあるように大人との愛着関係が特に必要な子どもたちです。
そのため、国は2016年の児童福祉法改正で、こうした子どもたちについて「家庭養育優先」、つまり里親家庭での養育を優先して進める方針を打ち出しました。これに伴い、各都道府県は里親の普及活動や研修、相談支援などの体制を整備することが求められました。里親に関する業務は、もともと児童相談所が一貫しておこなっていました。けれども、児童相談所は虐待の対応に多くの時間をとられている現状があります。そこで、現在は多くの都道府県で、里親にかかわる業務が民間事業者に委託されています。
こうした機関を「フォスタリング機関」といいます。その多くは乳児院や児童養護施設を運営してきた法人で、職員が施設でつちかった経験を生かして活動しています。
家庭に代わる養育を必要としている児童に対し、里親に委託される児童の割合を「里親委託率」といいます。こども家庭庁の発表によると2012年度末に全国で14.8%だった里親委託率は、2022年度末までに24.3%に上昇しました。日本の社会的養護は少しずつ変化しつつあります。
日本ではこれまで、あまりなじみのなかった里親制度。いったいどのようなものなのでしょうか。フォスタリング機関のお話を聞きながら、みていきたいと思います。
里親が増えれば地域にもメリットが
茨城県で児童養護施設、乳児院を運営している社会福祉法人同仁会は、2019年から茨城県のフォスタリング機関として里親に関する業務の多くを担ってきました。県南では現在、同法人の「さくらの森乳児院」に在籍する職員たちが里親の普及促進、研修、相談支援などをおこなっています。

広報や里親のリクルートを担当している増子さんにお話をお伺いしました。
―フォスタリング機関が立ち上がった当初から、茨城県内の里親登録数はどのくらい増えたのでしょうか?
「2019年に286組だったのが2024年末時点で466組にまで増えました。」
―順調に増えていますね。里親制度に対する周りの反応も変わってきましたか?
「そうですね。とくに市町村が積極的に協力してくれるようになりました。以前は、里親を希望する人が市町村の窓口に行っても職員が制度のことをよく知らず、対応が難しいことがありました。そこでまず、あいさつに行って顔を知ってもらうことからはじめ、里親さんが増えることは市町村にとってもメリットがあることなどを説明しました。
市町村の子育て支援事業のなかに、さまざまな理由で一時的に育児が困難になった親が休息をとれるよう、お子さんを短期間預かるショートステイ事業があります。ショートステイのお子さんは、以前は施設にだけ委託することができたのですが、2022年の法改正で、里親さんへの委託も可能になりました。施設は定員がいっぱいで対応できないことも多いので、里親さんが増えることは市町村にとっても大きなメリットです。
こうしたお話もさせていただくことで、市町村との関係は非常に深くなりました。里親に関心のある人が来たら、すぐフォスタリング機関につないでくれたり、職員さんがうちのパンフレットを使って説明してくれたりもしています。企業も社会貢献というかたちで、広報に協力してくれるようになりました。」

「家のため」でなく「子どものため」の里親制度
―欧米に比べて、日本では里親委託率が低いという状況が続いてきました。それはなぜだと思いますか?
「文化の違いというのは大きいのかなと思います。福祉の進んだ欧米では、子どもは一人の人間であって、血のつながりがなくても、育てて社会に送り出すことに意義を感じるという文化がある。でも日本では歴史的に血縁や家制度を重んじてきた文化なので、『家』という枠組みにあてはまらない子を外から連れてきて、また外へ送り出すということにはあまり意義が感じられなかったのかもしれません。実際に『家をつがせる子どもがほしいので、養子縁組をしたい』といった問い合わせが来ることもあります。」
―実親さんの側でも、自分の子どもが里親家庭に行くことに抵抗感を持つことはありますか?
「実親さんとのやりとりは児童相談所が担当していますが、実親さんのほうでも養子縁組をイメージして『子どもをとられてしまう』と思う方がいるようです。でも、一生離れてしまうわけではありません。いずれお子さんが実親さんの家庭に帰るときも、里親さんのもとで家庭生活を送っていたほうが施設よりもスムーズな面があります。制度のことや実親さんにとってのメリットをていねいに説明することが大切だと思います。」
里親にはいくつかの種類があり、もっとも委託される子どもの数が多いのが「養育里親」です。子どもが実親の家庭に戻れるようになるまで、または18歳になるまでの期間、養育する里親です。親権は実親が持ち、子どもに関する重要な決めごとをするときは、児童相談所を通して実親の同意を得る必要があります。
養子縁組を前提とした「養子縁組里親」というものもあります。養子縁組里親は実親の家庭に復帰することが難しい子どもに、永続的に養育をおこないます。里親として6か月以上子どもを養育したのち、裁判所に「特別養子縁組」の申し立てをおこない、裁判官の決定によって、法律上の親子となります。特別養子縁組は、子どもが安定した環境で健やかに成長することを目的として1987年に導入された制度で、家の相続などを目的としたものではありません。原則として実親の同意が必要で、その数は多くありません。

子どもを認めてあげて、ほめてあげて
―里親になることを検討する人に、とくに伝えたいのはどんなことですか?
「里親制度は『子どものための制度』ということを知ってほしいと思います。社会的養護のお子さんというのはどうしてもその育ちの中で、学べなかったこともたくさんあるし、知らなかったこともたくさんある。叱られて、どっちかというと攻撃されて、自分を認められてこなかったお子さんが非常に多くいると思うんですね。自己肯定感もないし、自分のことを自分で決めるんじゃなくて、施設に来たのも自分の都合じゃなくて親の都合で来ちゃったという子たちです。だから、里親さんは認めてあげてほしい、ほめてあげてほしいです。」
これから子どもを迎える大人の側からすれば、「こんな子どもがいい」という期待をつい抱いてしまうかもしれません。けれども里親に委託される子どもは、里親が知らない養育環境にいた子です。どんな子でも成長の途中から家庭にむかえ、養育することは容易ではありません。そのちがいを理解して、子どもに寄り添うことが里親に求められています。
家計も養育もサポートされます
―里親になるには、相当な覚悟がいると思います。
「経済的にも養育の面でも負担が大きいのではないかと心配する方も非常に多いのですが、支えるしくみもパワーも豊富にあるということも知ってほしいです。経済的な支援もあるし、養育に関しては、うちの相談支援や市町村の子育て資源もあります。里親制度は一人で子どもを育てるのではなくて、みんなで、社会で子どもを育てるという枠組みの中にあるものです。そういったところも知ってほしいです。」
子どもを委託された里親には里親手当や生活費などが支給され、子どもの医療費は全額公費負担です。養育の悩みはフォスタリング機関などに相談することができ、養育に疲れたときには、ほかの里親に一時的に子どもを預かってもらう「レスパイト」という制度も利用できます。里親家庭が交流し、親ぼくを深める「里親会」もあります。
―長く里親さんやお子さんに関わってきて、印象に残っていることはありますか?
「ぼくは児童養護施設で働きはじめたころ、子どもをうまくほめられない時期がありました。子どもは一人ひとりちがうのに『この年齢ならこれくらいできて当たり前』という感覚があったり。施設職員は、感情労働なので気持ちをつくって子どもと接しなければならないこともあります。
けれど、里親さんのなかには、本当に心から子どもを認めてほめているんだろうなっていう方がいました。『どんな失敗があっても親である自分があなたのことをしっかりとサポートしていく味方だよ』『悪いことをしたらしかるけど、自分はあなたのことを見捨てないよ』っていうのを真剣に、どんな時でも伝えられていて。それを栄養にして育ったお子さんがどんどん成長してきて、いろんなことに興味関心を向けて、できないことに対してもチャレンジしていて。見ていて、すごいなあと思いましたね。」
新生活は里親も子どももしんどい
説明会を経て里親登録を希望する人は、フォスタリング機関による面談、研修、家庭調査を受けます。そしてフォスタリング機関が提出した登録希望者の情報を、児童相談所が審査し、里親として適切と判断された人が里親登録されます。
里親委託が必要な子どもがいた場合は、児童相談所が子どもにとって適切な組み合わせを考えて、委託する里親を選びます。そして顔合わせ、マッチング(交流)に進んでいきます。マッチングを進めたうえで里親と子どもの双方の意志を確認し、最終的に委託が決定します。
委託後の子どもは初め、様子見で「良い子」をしていますが、しばらくすると、どこまで自分が受け入れられるのか里親を試す、「試し行動」が出てきます。わざと困らせるような行動をとってみたり、赤ちゃん返りしたりします。これは子どもが里親との本当の信頼関係を築くために必要な過程で、子どもも必死ですが、里親にとって試練の時期です。家庭で暮らしているうちに、マッチング中には気づかなかった子どものさまざまな顔が見えてきて、戸惑うこともあります。
そうした里親たちを支えるため、フォスタリング機関は「里親支援専門相談員」による家庭訪問をおこなっています。LINEや電話でも相談にものります。

子どもの自立後まで専門職員がサポート
家庭支援専門相談員の宮本真木子さんにお聞きしました。
―子どもを委託された里親さんからはどんな相談が寄せられることが多いですか?
「やはり委託から2、3か月してお子さんの試し行動が出ているころが里親さんの疲弊が大きく、悩みも多い時期です。それが落ち着いてくると、大なり小なりの悩みを抱えながら成長していきますが、次は進路、自立のところの相談がよく寄せられます。進学するのか、就職するのか、一人暮らしをするのか、里親さんのお宅から通うのか、私たちからはお子さんを支える制度をご案内しながら、ひとつひとつの選択肢について、いっしょに考えていきます。」
―基本的に里親制度では18歳で委託解除となるわけですが、里親さんはどんなお気持ちなんでしょうか?
「長い間、お子さんを見てきた里親さんはここで背中を押していいのか、まだまだ子どもの部分もたくさんあるのでもうし少し見てあげた方がいいんじゃないかとか、いろんな葛藤を抱えています。私たちは子どもの意見も大切にしながら、里親さんとお子さんの橋渡しをうまくできるような関わりができるといいんじゃないかなと思っています。
『自分で一人暮らししてがんばってみるよ』というお子さんには、里親さんのおうちを出たあともときどきLINEで連絡をとったり、困ったときに頼れる支援機関を紹介したりもします。」
子どもの表情がどんどん変わってくる
里親の養育は「チーム養育」です。フォスタリング機関、児童相談所、児童養護施設、市町村、学校、医療機関などとチームで協力をしあい、子どもの養育にあたります。決して里親だけで子どもを育てるわけではありません。なかでも里親と二人三脚で歩んでくれるフォスタリング機関は最強のチームメイトといえるでしょう。最後に宮本さんにお聞きしました。
―どんなときにこの仕事にやりがいを感じますか?
「里親さんが『かわいい』っていう言葉をかけてあげると、それを聞いたお子さんの表情がどんどん表情がやわらかくなってくる、生き生きしてくるのが、訪問しているとすごく伝わってくるんです。
私が乳児院の職員だったときにみていたお子さんが、里親さんの家庭に行って成長していく様子も見られて、一人の人生に伴走させてもらっているようでうれしいです。応援団としてそばで見ていられることにすごくやりがいを感じます。」

