レイシストとは、人種差別を行う人々やその考え方を意味する際に用いられる言葉です。
世界には黄色人種や黒人・白人、ヒスパニック、ラティーノなど様々な人種・民族が存在しています。
歴史的にレイシズムは、人種間の不平等を正当化するために使われ、数多くの悲劇や暴動を引き起こしてきました。現代社会においてもレイシズムは依然として深刻な問題であり、教育や就職、法の執行など様々な現場で顕在化しています。
今回は、レイシズムや人種差別の歴史、様々な国での人種差別の現状について、簡単に解説していきます。
レイシストとは?
まず、レイシストの意味や同義語・対義語・言い換えなど、基礎的な情報を解説します。
レイシスト(raicist)とは、人種差別主義者・民族差別主義者を意味する言葉です。
「race = 人種」なので「民族差別主義者はレイシストに当たらないのでは?」と考えるかもしれませんが、国連人種差別撤廃委員会では民族差別も人種差別だと認定しています。
レイシストの同義語・言い換えとしては「排外主義者(chauvinist)、民族主義者(nationalist)」などがあります。
レイシストの対義語としては「平等主義者(egalitarian)、博愛主義者(philanthropist)、人道主義者(humanist)、民主主義者(democrat)」などがあります。
そもそも人種とは何か、どの人種も生物学上は同一種
人種とは、人間が人を分類する際に決めた概念のことです。
人種は四大人種と呼ばれる、黒人(ネグロイド)・白人(コーカソイド)・黄色人種(モンゴロイド)・黒褐色人種(オーストラロイド)の4つに分けられています。
ただし、人種ごとに生物としての種が異なるわけではありません。
アフリカで誕生したホモ・サピエンスが各地に離散し、日射が強いアフリカ地域では肌を守るために黒色の肌に進化、日差しが弱いヨーロッパ地域ではしっかり物を見れるよう青い目に進化しました。
このように、いわゆる『人種による見た目の違い』とされているものは、環境の違いによって生まれたものです。
そのため、見た目の違いで人を区別するという『人種』の概念は、生物学上では正しくないと考えられています。
民族とは?人種と民族の違いとは
民族とは、文化や言語・宗教などを共有する集団のことです。
例えば母語による民族分類として「ウラル系民族」「アルタイ系民族」などが存在します。
生活様式による民族分類では「農耕民族」「騎馬民族」「遊牧民族」、宗教による民族分類では「アラブ民族」「ユダヤ民族」などが存在しまています。
人種は生まれながらのものですが、民族は後天的に変化することがあります。
レイシズムとは?人種間に優劣があると考える思想のこと
レイシズム(人種主義, racism)とは、人種間にはある箇所で優劣の差があり、優れた人種が劣った人種を支配するのは当然だというイデオロギーのことです。
この『レイシズム的考え』を持つのが、レイシストと呼ばれる人たちです。
レイシズムでは、「ある人種は一定の箇所で他の人種よりも優れている・劣っている」という考えをします。
さらに、「人種間で格差が存在するのは人種間での優劣があるから」「劣った人種とは共に暮らすべきではない」「劣った人種は排除すべきだ」といった過激な思想を持つ場合も少なくありません。
レイシスト・レイシズムの歴史
人種差別は紀元前以前から世界中で行われてきました。
古代ギリシャでは、ギリシャの文化や教育を身に付けていない人を『バーバリアン(野蛮人)』と呼びました。
古代中国では中華に帰順しない周辺民族のことを『東夷』『北狄』『西戎』『南蛮』と呼びました。これらは未開・野蛮を意味し、19世紀までこれらの民族は中華側から差別されていました。
黒人への人種差別が顕在化したのは、15世紀の大航海時代からです。
大航海時代には、ヨーロッパの国々が黒人を奴隷にしアメリカに輸出する『三角貿易』が行われました。
当時は「黒人は人ではなく商品だ」と見なされており、数百人の奴隷を1つの船に詰め込み、病気になれば海に投げ捨てるといった非人道的行為が、当たり前に行われていました。
第二次世界大戦では、ナチスドイツが「アーリア人が優れた人種である」という優生学の考えを導入し、ユダヤ人はホロコーストを受けました。
ホロコーストでは、劣勢人種と呼ばれた人達に強制不妊手術が行われたり、ガス室での虐殺などのジェノサイドが行われました。1933年~1945年の間に、600万人以上のユダヤ人が殺害されたとされています。
第二次世界中に世界各地で人種差別・大量虐殺が行われたことを反省し、1948年の国連総会にて『世界人権宣言』が採択されました。
世界人権宣言では、以下のように人種差別を禁止しています。
すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。
世界人権宣言 第二条 第一項
また、1969年には『人種差別撤廃条約』が発効され、人種隔離や人種分離、あらゆる人種差別の撤廃を目指しました。
しかし、第二次世界大戦後の世界でのレイシズムは終わらず、『アパルトヘイト』や『ルワンダ虐殺』などが発生しています。
1948年~1991年まで行われた南アフリカのアパルトヘイトでは、レストランや公共施設・居住地などが「白人用」「白人以外用」に分けられました。白人以外が白人専用の場所に立ち入ると逮捕されました。
また、居住区が白人・有色人種・黒人で分離された名残りは、現在の南アフリカでも色濃く残っています。
1994年に100日間続いたルワンダでの虐殺では、80万人~100万人のツチ族の人々がフツ族に殺害されました。このジェノサイドにより、ルワンダ国民の約20%が殺害されたとされています。
レイシストは今日でもまだ多く存在していて、レイシズムの終わりは見通せないのが現状です。
現代でも起きている、レイシズムやレイシストによる事件
世界では、レイシストによる暴行事件や国家主導での人種差別が今でも行われています。
今現在、世界ではどのような人種差別・民族差別が行われているのでしょうか?
実際近年発生したレイシズムの事例と、現在進行形で発生しているレイシズムの事例を3つ紹介していきます。
アメリカ:ジョージ・フロイド死亡事件
2020年5月25日アメリカのミネソタ州ミネアポリスにて、黒人のジョージ・フロイドさんが白人警官に膝で頭を押さえつけられ死亡する事件が発生しました。
当時フロイドさんは「息ができない」と11回も懇願していたにも関わらず、8分46秒間も押さえつけられ、窒息死してしまいました。
- 何度も懇願しているにもかかわらず拘束を緩めなかったこと
- 逮捕された警察の罪が軽かったこと
- 殺害した警察官が3度も人種的マイノリティへの銃撃に関与していたこと
- 2013年にも黒人少年のトレイボン・マーティンさんが白人の元警察官に射殺されたこと
などから、黒人差別に対する怒りが全米で拡大。さらに、事件当時の動画がSNSで拡散され、全米各地でデモや暴動が拡大しました。
この事件は『Black Lives Matter』運動にも繋がり、アメリカの白人には黒人・有色人種・ヒスパニックに対するレイシストがまだ多くいると議論が紛糾しました。
アメリカ:KKK(クー・クラックス・クラン)
KKK(クー・クラックス・クラン)は、アメリカに存在する白人至上主義組織です。
KKKは、解放奴隷となった黒人や北部からの不法侵入者から家族を守るため、アメリカ南北戦争が終わった直後に結成された組織です。
KKKのメンバーは、白頭巾・白装束で全身を覆い黒人を襲い、1920年には最大450万人のメンバーを抱えていました。
現在は約5000人のメンバーが所属しているとされていて、近年移民問題の影響から勢いを伸ばしています。
中国:ウイグル族の弾圧
中国の新疆ウイグル自治区は、住民の半数がテュルク族を祖先とするウイグル族となっています。
中国のほとんどは漢族で占められており、イスラム教徒でウイグル族の人々は、少数民族として中国当局から弾圧を受けています。
これまで100万人以上のイスラム教徒が強制収容所に送られ、暴行や再教育が今なお行われています。
なぜレイシストは生まれるのか、レイシストが生じる4つの理由
レイシズムは一般的に悪いことだと教えられますが、現在に至っても世界各国でレイシストたちが生まれています。
アンチレイシズム教育を受けていながら、なぜレイシストが生まれてしまうのでしょうか?
人種偏見のメカニズム(著:ルース・ベネディクト 訳:菊池敦子・福井七子)の論文を基に、なぜ人種差別が起こるのかを簡単に纏めました。
①:社会的・経済的要因
特定の人種や民族が社会の中で優遇されていることが原因で、人種差別が生じることがあります。
キリスト教で禁じられていた金融業をヨーロッパで行ったことで裕福になったユダヤ人、少数民族にも関わらず政府の要職を占めていたツチ族などがこれに該当します。
②:文化的・歴史的要因
過去の歴史や文化的背景が原因で、人種差別が生じることがあります。
植民地支配時代の名残りで支配層と被支配層の対立が残るアフリカ・太平洋諸島や、宗教的理由で弾圧を受けるウイグル・ロヒンギャなどがこれに該当します。
③:心理的要因
心理学的には、自己が所属する集団を他集団よりも好む傾向があります。
外集団に対して否定的なバイアスやステレオタイプが生じる事で、外集団へのレイシズムが生じることがあります。
また、反対意見を聞くことがなく肯定意見が増長されるエコーチェンバー現象が発生し、より思想が偏ったレイシストになりやすいとされています。
④:教育の認識と欠如
多様な文化や歴史についての教育が不足すると、他人種・民族への偏見や誤解が生まれやすくなります。
偏った教育を受けていたり、そもそも義務教育を受けていなかったりする地域では、レイシズムが強く形成されます。
人種差別が多い国ランキング、少ない国ランキング
US Newsが発表した「2023 Best Countries Best for Racial Equity」では、以下の国が人種差別が少ない国TOP5となっています。
順位 | 国名 |
---|---|
1位 | ニュージーランド |
2位 | カナダ |
3位 | オランダ |
4位 | スウェーデン |
5位 | ノルウェー |
1位のニュージーランドでは、回答者の85%以上が「多様な民族・人種がいるほど、国が強くなる」という意見に同意しました。
また、回答者の66%が「自国は移民にもっとオープンになるべきだ」と答えました。
同じくUS Newsが発表した「2023 Worst Countries for Racial Equity Ranking」では、以下の国が人種差別が多い国TOP10となっています。
順位 | 国名 |
---|---|
1位 | セルビア |
2位 | カタール |
3位 | サウジアラビア |
4位 | イラン |
5位 | イスラエル |
6位 | ミャンマー |
7位 | アラブ首長国連邦 |
8位 | ロシア |
9位 | エルサルバドル |
10位 | スリランカ |
ワースト1位のセルビアでは、少数民族のロマ族に対して多くの差別と迫害が行われているとのことです。
また、セルビアに住むアルバニア人も、差別と不平等な失業にあっているとしています。
日本におけるレイシスト問題
日本でも、レイシズムやレイシストに関わる社会問題は発生しています。
私たち日本人は、無意識のうちに他の人種・民族を差別してしまっていることがあります。
例えば薄橙色を「はだいろ」と呼ぶ行為は、肌の色が異なる日本人以外を考慮していない呼び方です。また、肌の色が異なる人を避けてしまったりチラチラ見てしまうこともあるかと思います。
さらに、意識的に外国人排斥を訴える日本人も存在しています。
ここからは、日本で起きているレイシスト問題の事例について簡単に解説していきます。
入管問題
日本では、不法入国者や難民は入国管理局(入管)に拘留されます。
2021年3月、入管に収容されていたスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが入管施設内で死亡しました。
1月頃から体調が悪化し嘔吐を繰り返しており、病院からは「点滴の処置が必要」と判断されながらも、入管はそれに応じず病死してしまいました。
また、入管職員が人権侵害の発言をしたり、拷問に近い扱いを行っていたことが監視カメラ映像から判明し、国内外で大きな抗議活動が行われました。
日本の入管では、過密収容や医療アクセスの不足、自殺や暴力事件といった人権侵害が多数報告されており、国連やアムネスティインターナショナルから改善を勧告されています。
外国人実習生問題
日本では、少子高齢化に伴う労働力不足を補うため、外国人労働者の受け入れを拡大してきました。コロナ禍前の2019年には、約41万人の外国人実習生が在留していました。
国別の内訳を見ると、ベトナム人が約19万人、中国人が約8万人、フィリピン人が約3万人、インドネシア人が約3万人となっています。
技能実習生制度は、外国からの実習生が日本で技術や知識を身に付けることを目的としていますが、近年は低賃金で外国人を働かせられることを目的としている企業が数多くあります。
そのため、技能実習生制度では以下のような問題が数多く発生しています。
- 最低賃金に満たない低賃金
- 長時間労働、残業代の未払い
- 労働災害の多発
- パスポートが雇用主に奪われる
- セクハラ・パワハラ
さらに、これらの待遇に耐えかねた実習生が失踪し、日本で犯罪に手を染める事件もたびたび発生しています。
伝統芸能・文化・スポーツにおける外国人差別
日本の伝統芸能・文化やスポーツでは、外国人が差別されていることも少なくありません。
例えば、相撲では日本国籍でないと年寄になることができません。
また、モンゴル出身の旭天鵬は2005年に日本国籍を取得しましたが、日本メディアは旭天鵬の優勝を「日本人力士の優勝」とは報じませんでした。
さらに、テニスで大阪なおみ選手が活躍した際にも、彼女は日本人かどうかという議論が沸き起こりました。
(参考)血統主義と出生地主義
世界では国籍が付与される際に『血統主義』の国と『出生地主義』の国があります。
血統主義とは、両親の国籍を基に子の国籍が決まる方式のことです。例えば、両親ともに日本人であれば、どこで生まれても子どもは日本人、という考えのことです。
父系優先血統主義の国
- インドネシア
- スリランカ
- イラク
- イラン
父母両系血統主義の国
- 日本
- 韓国
- 中国
- タイ
- フィリピン
- インド
- ドイツ
- フランス
出生地主義とは、生まれた時にいた国の国籍を基に子の国籍が決まる方式のことです。例えば、両親ともに日本人でアメリカで出産した場合、子どもはアメリカ人という考えのことです。
出生地主義の国
- アメリカ
- カナダ
- アルゼンチン
- ブラジル
- パキスタン
- バングラデシュ
- フィジー
- タンザニア
- アイルランド
- ザンビア
出生地主義の国では、どの民族・人種であっても、その国で生まれれば同じ国民と見なされるため、比較的レイシズム的考えが少ないと言われています。
一方、血統主義の国では、その国で生まれ育ったとしても自国民と見なされないことが多く、差別や偏見に合いやすいと言われています。
レイシスト・レイシズムについてもっと学べる本を3冊紹介!
この記事を読んで、もっとレイシズムについて学びたいと思った人のために、レイシズムについて学べるおすすめの本を3冊紹介します。
レイシズム
1940年に発売され、今なおロングセラーとなっているレイシズムの古典的名著です。
1940年は、ヨーロッパでナチスによるアーリア人至上主義が吹き荒れた時代。そんな社会の中で、著者であるルース・ベネディクトは世界で初めて「レイシズム」という言葉を定義しました。
「人種とは何か」「レイシズムには根拠があるのか」を鋭い切り口から説いている一冊です。
レイシズムとは何か
在日コリアン3世で東京外国語大講師の梁英聖による本です。
「日本には人種差別はあるのか?」という問いに対し、在日コリアン当人の視点から日本のレイシズムについて論じています。
被害者にも寄りそいながらも差別する自由を守る『日本型反差別』を批判し、グローバルな反レイシズム運動と連帯する道を開くべきだと語っています。
アンチレイシストであるためには
2019年に全米130万部のベストセラーとなった「How to Be an Antiracist」が、待望の日本語訳で出版された本です。
レイシズムの問題の根源が「権力」と「ポリシー」にあると論じていて、レイシズムを生み出す社会構造を変えなければレイシズムはなくならないと説いています。
本著の後半には、「アンチレイシストであろうとするための8つのステップ」が記されており、これらを日々意識し行動することで、人種差別的考えから遠ざかることができます。
まとめ:レイシストにならないよう、多様な考えと情報を得ることが重要
今回は、レイシストとは何か、その意味と歴史、なぜ人種差別が起こるのかなどを解説しました。
レイシスト(racist)やレイシズム(racism)は、ふとした瞬間に私たちも行ってしまっているかもしれません。
偏った情報ばかり得たり、偏ったコミュニティに所属していると、どんどんと他の人たちへの寛容さが失われてしまいます。そのため、多様な角度から情報を得ることが、誤った歴史を繰り返さないために大事です。
ソーシャルエッグでは他にも、社会問題に関する解説記事を掲載しています。また、これらの社会問題に取り組む企業や法人にインタビューを行い、彼らの取り組みや想いについて伺っています。関心がありましたら、ぜひそちらもご覧下さい。