今回は、コーヒーの販売を通してネパールの雇用支援を行っている「BIKAS COFFEE」を立ち上げた、菅さんにインタビューを行いました。
- フェアトレードなど、発展途上国への支援に興味がある方
- 経済的な支援だけに留まらない、支援活動の広がりに興味がある方
- 大きなコミュニティをつくりたいと考えている方
はぜひ読んでいただけたらと思います!
プロフィール
【名前】
菅 勇輝
【経歴】
同志社大学グローバルコミュニーション学部 ⇒ 株式会社ベクトル ⇒ NPO法人DREAM-Hack 代表理事 ⇒ 合同会社BIKAS COFFEEを起業
【携わっている主な事業内容】
ECサイト「STORES」でのコーヒー販売
東京・江戸川橋、ネパールにてコーヒーショップを経営
コーヒー植樹プロジェクト BIKAS COFFEE VILLAGE
「僕たちは世界を変えられない」という映画を観て、途上国に関心を持った
本日はよろしくお願い致します。
ではまず、菅さんの経歴について、お聞かせ頂いてもよろしいでしょうか。
はい。幼少期はアメリカに住んでいて、社会人になるまでは大阪に住んでいました。
大学は同志社大学グローバルコミュニケーション学部に進学しました。そこで、「僕たちは世界を変えられない」というカンボジアに学校を建てる映画を見て、大学生のうちに人と違った何か面白いことをしていきたいと思いました。そこで、この映画の影響から、途上国に学校を建てる学生団体を立ち上げ、一年間休学をしつつネパールでの支援活動を始めました。
大学生時代のネパールでの活動では、どのようなことをされていたのですか?
学校建設のための募金活動を主にしていました。目標金額を集めることには成功したのですが、最終的に現地で協力していただいてたNPOとの連携がうまくいかず、目標だった学校建設は叶わぬまま、その時の挑戦は終わってしまいました。
なるほど。その後は大学を卒業されて、どのようなことをされていったのでしょうか?
大学卒業後は、株式会社ベクトルという東京にあるPR会社に勤めました。しかし国際協力を諦めきれず、2年後の2018年に独立してNPO法人 DREAM-Hackを立ち上げ、ネパールでの活動をもう一度始めました。その後、元々NPOの活動の一つとしてあったBIKAS COFFEEをスピンアウトする形で、2022年合同会社BIKAS COFFEEを新たに立ち上げました。
BIKAS COFEEとは?理念で売るコーヒーショップとその店舗について
ここからは、BIKAS COFEEのサービス内容についてお伺いさせて頂ければと思います。
はい。BIKAS COFEEでは、森と共生する農法「アグロフォレストリー」で生産された、世界的にも珍しいネパール産コーヒー豆の流通を増やすことで、雇用支援を行なっています。
また、BIKAS COFFEEの世界観やコミュニティをリアルに体験できる場として、コーヒーショップも経営しています。ただコーヒーをお届けするだけではなく、消費者同士の想いを繋ぐ場を創り、すべてのヒトが社会に貢献できるGLOBALACTIONを生み出すことを目指しています。
「理念で売るコーヒー」とは
BIKAS COFFEEさんでは、コンセプトとして「理念で売るコーヒー」を強く押し出されていらっしゃいますよね。なぜコンセプトをここまで強く押し出されていらっしゃるのでしょうか?
僕たちはただコーヒーを味わってもらうだけではなく、僕らが実現したい社会像まで含めた BIKAS COFFEEの価値観を好きになって楽しんでもらうために「理念で売るコーヒー」としてお届けしています。
僕らがなぜネパールの、そしてネパールの中のハルパン村のコーヒーを世の中に届けようとしているのか、その理由や僕らが実現したい社会の姿を、コーヒーを通じて知ってもらい、共感を生むことを目指しています。
なるほど。菅さんは、なぜ「コーヒー」や「ネパール ハルパン村」にフォーカスして事業を行われているのですか?
ネパールで活動を続けていくうちに大切にしたい人や繋がりが増え、この国で、日常の生活の中でできる貢献や、もっと楽しいことを関わりのある人とつくっていきたい、と思うようになったからですね。
元々、僕自身はコーヒーが好きっていうわけではなかったですし、活動する場所も始めはぶっちゃけどこの国でも良かったんです。
最初にたまたま学校を建てた場所がネパールだったというだけだったんですが、そこでネパールの人たちと関わっていくうちに、僕という人間をすごく認めて期待してくれることに嬉しさを感じ始めました。また、ここで受けた気持ちをネパールに還元していきたいと思うようになり、ネパールを中心に拠点を置き、ずっと関わり続けています。
なぜコーヒーなのかという点に関しては、僕たちの日常の中で、一番ネパールに貢献できるものがコーヒーだったからです。
教育支援や雇用支援など、僕の行っていた活動はとても大きなものだと見られがちでした。日本にいるとネパールの問題は遠く離れた異国の問題なので、親近感が湧かないのは当然だと思います。そのため、募金や寄付を募った際にも、共感ではなく同情でお金が集まっているようで、あまり気持ち良く活動ができませんでした。
僕は好きでネパールの支援活動をしていたので、社会貢献や国際協力の切り方をせずとも、自分が日常的にしていることで社会への貢献ができたらいいな、と考えていました。そんな時にネパールのコーヒーの存在を知り、ネパールでの繋がりの中でハルパン村に辿り着きました。
ハルパン村のコーヒーだったらネパールへの貢献も作れるし、それだけではなくコーヒーというプロダクトを通じて、僕らのいる日常の中でも世界に貢献できる機会をつくることができるので、それが僕らがネパールのコーヒーを届けている理由になります。
BIKAS COFFEEは、東京・江戸川橋とネパールに1店舗ずつ実店舗がある
BIKAS COFFEEさんは実店舗も経営されていらっしゃるんですよね?
はい。東京文京区江戸川橋と、ネパール第二の都市ポカラにもあります。
東京・江戸川橋の店舗では、一日店長やワークショップなどのイベントも行なっており、コミュニティに関わる人のやりたいことを実現させる空間としても使っています。
元々実店舗を持つことは予定になかったのですが、コーヒーを売る場としてだけではなく、わかりやすく関係人口が集まる場所ができたことも、僕たちが大切にしているコミュニティづくりに大きく貢献しているように感じています。
ハルパン村でのコーヒーと環境づくり
BIKAS COFFEE で販売されているコーヒーは、現地で生産されてから、焙煎まで現地でされているのでしょうか?
ネパールでは、コーヒー豆の生産と生豆の精製までを行っています。
その後、日本国内で販売する豆に関しては、生豆の状態で輸入し、国内の知り合いの焙煎所で焙煎してもらっています。その後、実店舗やECサイトで販売しています。
ネパールで販売している豆に関しては、現地で焙煎したものをそのままお店で販売しています。
なるほど。ハルパン村でのコーヒー栽培にはどれくらいの方が携われているのでしょうか?
村全体は80人ほどで、そのうち約40人の農家がアグロフォレストリーという森林農法でコーヒーを栽培しています。
ネパールでは元々、自給自足の生活をしていて、自分たちの食べ物を森で得ていました。そのため、森を開発してコーヒーを栽培してしまうと、彼らが食べ物を得られなくなってしまいます。そこで、彼らの森の空き地にコーヒーの木を植えるという手法(アグロフォレストリー)を取っています。
環境を切り崩すことなく自分たちの生活の中でコーヒーを育てることができ、副業的な感覚で人と森が共存しているような環境をつくることが可能になっています。
現地に即した農法として、アグロフォレストリーを選ばれたんですね。
この支援を通じて、現地の人の生活が良くなったり、何か改善されたことはあるのでしょうか?
まず分かりやすい所としては、私たちがハルパン村からコーヒー豆を購入することで、現地の農家さんに経済的な支援となっています。
ただ、現時点では大量のコーヒ一豆を購入できているわけではないので、生み出せているソーシャルインパクトはまだ少ないと感じています。
そこで3年前より、ハルパン村で自分のコーヒーの木を育てる権利を販売しています。
オーナーさんにはコーヒーの苗を購入してもらい、名入りのコーヒーの苗を現地で植えます。その後、植えてから3年後にその木から採れた豆をオーナーにお届けしています。この事業を始めてからは、現地の農家さんがコーヒー栽培をただのお金稼ぎというだけでなく、色んな人の想いを乗せた栽培なんだと理解してくださり、農家さん自身のモチベーション向上に繋がっています。
また、今年からの取り組みで、農家コミュニティの運営も始めました。
コーヒー栽培に必要になってくる、陰になる木や農具、知識の不足など、農家ごとにあった課題をコミュニティ内で共有し共に解決を目指せるような場を設けることで、農家がより農業をしやすい環境づくりへの貢献も目指しています。
ここまで読んで頂いて分かる通り、僕らは一般的なフェアトレード商品というだけではなく、環境自体をつくるコーヒーだと考えています。
共通の価値観で共につくる、コミュニティと発展
BIKAS COFFEEさんにはコミュニティやクラウドファンディングなど、熱心なファンの方が多いとHPやSNSを見て感じました。
やはりファンの方と一緒にコーヒーをつくることを大切にされているのでしょうか?
はい。BIKASとはネパール語で「発展」を意味しているのですが、僕らが目指しているのはこのコーヒーに携わっているすべてのヒトが発展していけるような社会です。
そのため、ネパールへの支援だけではなく、コーヒーを飲んだ人1人1人がやりたいことを、私たちと一緒に形にしていくことを目指しています。
また、僕らがつくるコミュニティとして大切にしているのが、モノに集まるのではなく、人に集まるのでもなく、価値観で集まる場所なので、プロセスは違ってもみんな同じところを目指しているおかげでコミュニティが熱を帯びて広がっているのだと思います。
すごいビジョナリーなコミュニティなんですね。
はい、まさにその通りですね。
ビジョンを明確に打ち出してどう共感を生み出すか、言葉だけじゃなく行動やひとつひとつの試作を通してどうビジョンに繋げていくか。それが僕らの目指す「理念で売るコーヒー」の本質になります。
実店舗を持っていることも、リアルでのふれあいやコミュニティづくりに一躍かっているようですが、今後実店舗を増やす計画などもされているのでしょうか?
実店舗を増やすよりも、イベントなどを通じて近い距離でコーヒーを届けていきたいと考えています。
国内に関しては、移動販売としてキャンピングカーで全国各地にコーヒーを届けにいくようなプロジェクトも考えています。キャンピングカーで届けることで、僕らのコーヒーがつくる発展、BIKAS空間もさまざまな町に届けていきたいと思っています。上手くいけば年内、遅くとも来年の春頃には始めていきたいと考えています。
めちゃくちゃいいですね!
店舗でも移動販売でも、近くにお立寄りの際はぜひお越しください!
自分のやりたいことを価値に繋げるGLOBALACTION
コーヒー販売以外にも、GLOBALACTIONという活動に力を入れているようですが、こちらはどのようなことを目指した活動なのでしょうか?
GLOBALACTIONは関わる人の中でアイディアを持ち寄って、自分のやりたいこと、好きなこと、大切にしていることで社会的な価値、経済的な価値が生まれるアクションを起こしていく活動です。
まさにコーヒー植樹もこのGLOBALACTIONの1つとして行っていて、自分のコーヒーの木を植えることで、身の回りの未来の中に農家さんたちとの繋がりや森を作る、という社会的にも経済的にも価値を作れるような活動になっています。
今後のGLOBALACTIONとして、どのような計画がありますか?
今計画しているのが、ハルパン村での石鹸づくりです。
あるひとりの女の子がインターンシップでネパールを訪れた時に実際に感じたことで、今ネパールではゴミのポイ捨てのような、環境衛生が問題になっています。
コーヒー栽培のためにも環境の改善は必要になってくるのですか、環境にやさしいモノを僕らが持ち込んだとしても、個包装のゴミが出てしまいますし、それを買うお金も必要になります。
それならば、新しく物を持ち込むのではなく、アグロフォレストリーとして今ある資源をもっと活用していくにはどうすればいいかを考えています。
そこで今、北海道でヤギの牛乳から石鹸を作っている知人がいるのですが、その方のスキルを技術提供のような形でハルパン村に伝え、現地でもヤギの牛乳由来の石鹸の生産をしたいと考えています。
この仕組みならば、その場所にある資源の中で社会への貢献をつくっていく事が可能になるし、それぞれ課題があって今までコーヒー栽培ができなかった農家以外の村の人たちに、新たな仕事をつくってあげることもできます。上手くいけば、ポカラやカトマンズの首都でのお土産として開発していくことも目指しています。
たしかに、ヤギだったら一緒に肥料とかもたくさんできますし、農業で活用することもできますね。
そうですね。実際、現地でも家畜はたくさん飼っていますし、自然や資源はたくさんあるのでそこを上手く活用していければ、と思っています。
支援の仕方はお金だけじゃない、コミュニティや価値観を大切にするBIKAS COFFEE
今回は、コーヒーの販売を通してネパールの雇用支援を行っている「BIKAS COFFEE」を立ち上げた、菅さんにインタビューを行いました。
更なる発展にはお金だけではなく、共通の価値観を持ったコミュニティ形成も大切だと、気付くことができました。
私も何か行動を起こす時にはただ社会に役立つことをするだけではなく、自分の価値観を大切に、やりたいことを社会に繋げたGLOBALACTIONをしていきたいと思いました。
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