グローバルサウスは近年急速に認知度が高まっている言葉です。2022年までは「グローバルサウス」という言葉自体の知名度はほとんどありませんでしたが、2023年になって前年比100倍以上の検索がされています。
ではなぜ2023年になって急に、グローバルサウスという考えが注目され始めたのでしょうか?また、グローバルサウスとはどこの国が当てはまり、どんな定義を指す言葉なのでしょうか?
今回はグローバルサウスとは何か、詳しく解説していきます。世界の社会問題や時事問題・経済への関心が高いビジネスマンの方々は、ぜひ最後まで読んで世界情勢の理解を深めて頂ければと思います。
グローバルサウスとは?グローバルサウスの定義や特徴、発展途上国やBRICSとの違い
グローバルサウスには、明確な定義はありません。そのため、各国・各メディアで少しづつグローバルサウスとは何かいう定義や由来・語源がズレていることがあります。今回は、Oxford University Pressのグローバルサウス(Global South)の定義をご紹介します。
- 冷戦時代の「第三世界」にあたる、西側陣営にも東側陣営にも該当しない、中立を重視する
- 経済的に貧しく、資本主義とグローバリゼーションから負の影響を受けている・あるいは受けていた
- 植民地時代の被支配経験から生じる、国境を超えて支配側に抵抗する政治的連帯
https://www.oxfordbibliographies.com/display/document/obo-9780190221911/obo-9780190221911-0055.xml
上記の3つに該当する国が「グローバルサウス」に当てはまるとされています。そのため、中国やロシアなどは東側陣営のためグローバルサウスには該当せず、イスラエルは中東にありながらも西側陣営のためグローバルサウスには該当しません。また、地球の南半球にあるオーストラリアやニュージーランドも、①~③の定義に当てはまらないためグローバルサウスではありません。
また、発展途上国・新興国でなくとも、グローバルサウスに該当する国は存在します。シンガポール・チリ・サウジアラビア・アラブ首長国連邦などは発展途上国・新興国ではなく経済的に豊かですが、過去に先進国からの経済的・環境的な負の影響を受けていて政治的中立を保っているため、グローバルサウスであると見なされています。
このように、グローバルサウスの定義は非常に複雑かつ曖昧です。G7の西側先進国では、グローバルサウスを主に①のニュアンスで使用している場面が多いです。そのため、BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)の中でも、ブラジル・インド・南アフリカはグローバルサウスに該当していると見なされています。この3国はグローバルサウスの国々の中では経済規模が大きいため、グローバルサウスの中で大きな影響力を持っています。
なお、グローバルサウスの対義語としてグローバルノースも存在します。グローバルノースとは、アメリカやヨーロッパ各国・日本・韓国・台湾・イスラエル・オーストラリア・ニュージーランドなどの先進国が該当します。グローバルノースとは、地球の北側と南側の経済格差が言葉の由来・語源となっています。グローバルノースの構成国はいわゆる西側陣営と呼ばれる国々で、中国やロシアはグローバルノースにもグローバルサウスにも所属していません。
Oxford University Press以外でグローバルサウスの定義には、以下のようなものがあります。
BBCのグローバルサウスの定義
“Global South” – a term used for developing countries in Asia, Africa and Latin America, all of whom have complex political and economic ties to both Russia and China.
https://www.bbc.com/news/world-asia-65630650
Cambridge University Press & Assessmentのグローバルサウスの定義
the group of countries that are in Africa, Latin America, and the developing parts of Asia
https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/global-south
グローバルサウスに含まれる国の一覧
その国がグローバルサウスに含まれるかどうか明確な基準はありませんが、G77の加盟国 = グローバルサウスの構成国と見なされることが多いです。G77とは、発展途上国が集団となって経済的利益促進・発言力強化を目的とした組織です。現在は134カ国が加盟しており、2023年はキューバが議長国を務めています。
2023年現在のG77加盟国一覧は以下の通りです。
G77加盟国 | ||||||||||||
アフガニスタン・イスラム共和国 | アルジェリア | アンティグア・バーブーダ | アゼルバイジャン | バハマ | バーレーン | バングラデシュ | ||||||
バルバドス | ベリーズ | ベナン | ブーダン | ボリビア | ボツワナ | ブラジル | ||||||
ブルネイ・ダルサラーム | ブルキナファソ | ブルンジ | カーボベルデ | カンボジア | カメルーン | 中央アフリカ共和国 | ||||||
チャド | チリ | 中国 | コロンビア | コモロ | コンゴ民主共和国 | コンゴ共和国 | ||||||
コスタリカ | コートジボワール | キューバ | ジブチ | ドミニカ | ドミニカ共和国 | エクアドル | ||||||
エジプト | エルサルバドル | 赤道ギニア | エリトリア | エスワティニ | エチオピア | フィジー | ||||||
ガボン | ガンビア | ガーナ | グレナダ | グアテマラ | ギニア | ギニアビサウ | ||||||
ガイアナ | ハイチ | ホンジュラス | インド | インドネシア | イラン・イスラム共和国 | イラク | ||||||
ジャマイカ | ヨルダン | ケニア | 北朝鮮 | キリバス共和国 | クウェート | ラオス人民民主主義共和国 | ||||||
レバノン | レソト | リベリア | リビア | マダガスカル | マラウイ | マレーシア | ||||||
モルディブ | マリ | マーシャル諸島 | モーリタニア | モーリシャス | ミクロネシア連邦 | モンゴル | ||||||
モロッコ | モザンビーク | ミャンマー | ナミビア | ナウル | ネパール | ニカラグア | ||||||
ニジェール | ナイジェリア | オマーン | パキスタン | パレスチナ | パナマ | パプアニューギニア | ||||||
パラグアイ | ペルー | フィリピン | カタール | ルワンダ | セントクリストファー・ネービス | セントルシア | ||||||
セントビンセントおよびグレナディーン諸島 | サモア | サントメ・プリンシペ | サウジアラビア | セネガル | セーシェル | シエラレオネ | ||||||
シンガポール | ソロモン諸島 | ソマリア | 南アフリカ | 南スーダン | スリランカ | スーダン | ||||||
スリナム | シリア・アラブ共和国 | タジキスタン共和国 | タンザニア | タイ | 東ティモール | トーゴ | ||||||
トンガ | トリニダード・トバゴ | チュニジア | トルクメニスタン | ウガンダ | アラブ首長国連邦 | ウルグアイ | ||||||
バヌアツ | ベネズエラ・ボリバル共和国 | ベトナム | イエメン | ザンビア | ジンバブエ |
なお、中国はG77の加盟国ではあるものの、中国政府は自身をG77加盟国とは見なしていません。そのため、公式声明では「G77+中国」とされることが多いです。台湾もG77には入っていません。メキシコは1994年にG77から脱退後、2023年に再加盟していますが、G77の公式サイトには掲載されていません。
なぜ今、グローバルサウスが注目されている?
グローバルサウスの国々は、2022年以降急速に注目を集めています。ではなぜ今、グローバルサウスが注目されているのでしょうか?
1つ目の理由は、ウクライナ戦争です。ウクライナとロシアの戦争が始まってから、国連総会での決議や安保理決議などが頻繁に行われるようになりました。特に国連全加盟国によって行われる国連総会緊急特別会合は、1982年以来の実施となり、冷戦以降の世界で決議に「賛成をした国」「反対をした国」「棄権をした国」が可視化されました。
ここで、決議で棄権・意思表示を示さなかった、政治的中立を重視するグローバルサウスの国々の姿勢が鮮明となりました。国連の決議は1国1票のため、決議が採択されるかは国数の多いグローバルサウスの投票行動に大きく左右されます。そのため、グローバルサウスの注目度が一気に高まりました。
2つ目の理由は、イスラエルによるガザ侵攻です。2023年10月、イスラエルはハマスによる攻撃に反攻するため、パレスチナのガザ地区に空爆・地上侵攻を始めました。ここでは、西側諸国はイスラエルを支持する一方、グローバルサウスの国々はハマスを支持する傾向にありました。そのため、西側諸国と必ずしも同調しないグローバルサウスの立ち位置が改めて鮮明となり、注目度を高めることとなりました。
また2023年に、インドが「Voice of Global South Summit」を開催したり、G7広島サミットでグローバルサウスに言及することがあったため、グローバルサウスという言葉がメディアに取り上げられる機会が増えています。
グローバルサウスで存在感を発揮している国とは?
ここからは、グローバルサウスで存在感を発揮している国について解説していきます。グローバルサウスで存在感を発揮している国の特徴として、以下の3点が挙げられます。
- 人口が多く、若年層の割合が高い
- 経済成長の伸びしろが高い
- 地政学的重要性が高い
では、グローバルサウスで存在感を発揮している国として「インド」「トルコ」「ブラジル」「インドネシア」「ナイジェリア」を簡単に紹介していきます。
グローバルサウスで存在感を発揮している国①:インド
インドは人口14億人、GDP世界5位と、どちらもグローバルサウスでトップの規模を誇る国です。強い経済力と「発展途上国」というポジションを活かし、グローバルサウスのリーダーとして他の国々を纏めようとしています。実際、2023年1月にインドのモディ首相は第一回「Voice of Global South Summit」を開催し、参加国は125カ国に上りました。
インドは西側・東側どちらの陣営にも属していません。ウクライナ戦争ではロシア非難を棄権し、ロシアから多くの原油・肥料を購入している一方で、日本・アメリカ・オーストラリア・インドの4カ国からなる太平洋の安全保障枠組み『QUAD』に参加しています。また、G7広島サミットではゼレンスキー大統領と直接会談も行っています。東西どちらかの陣営に肩入れするのではなく、自国の利益が最大化される外交戦略を取っています。
ただ、インドは国境を接する中国との関係が悪化しており、中国は『BRICS』を中心に新興国の仲間を集めようとしています。そこでモディ首相は『グローバルサウス』を軸に、新興国の仲間を集めようという外交戦略を始めました。そのため2023年9月に、インドはアフリカ連合をG20常任メンバーに加えました。これにより、インドはアフリカ・グローバルサウスの味方であるという存在感をアピールしています。
グローバルサウスで存在感を発揮している国②:トルコ
トルコは人口8700万人、GDP世界19位で黒海と地中海を結ぶボスポラス海峡を有する、地政学的に非常に重要な国です。ヨーロッパからアジア・アフリカ・中東へ海運を行う場合、ライン川から黒海に入り・ボスポラス海峡・地中海・スエズ運河を通るルートが用いられます。そのため、ボスポラス海峡には1年で約5万隻の船が通行し、世界の輸出品総額の約5%を占めるほど重要な地点となっています。
トルコがグローバルサウスで存在感を見せたのは、ウクライナ戦争での役割が大きいです。ロシアとウクライナを仲介し、黒海経由での穀物輸出を実現させたことで、トルコは大きな外交力を見せました。トルコはNATOに加盟しながらも欧米諸国とは一歩距離を置いており、自国の利益を最大化するための外交戦略を取っています。
グローバルサウスで存在感を発揮している国③:ブラジル
ブラジルは人口2億1500万人、GDP世界10位、国土面積世界5位を誇る、南米一の大国です。ブラジルは鉄鉱石や原油・レアメタルなど豊富な鉱物資源やそれらを加工した工業製品、大豆・牛肉・コーヒー豆などの農作物など幅広い産業を持ち合わせていることが特徴です。
グローバルサウスの国では農業・鉱業を中心とした一次産業に偏りやすいですが、ブラジルでは航空機や自動車などの工業製品を生産できる技術力を持ち合わせています。また、インターネットの普及率が70%でSNSや動画サービスの市場規模は世界2位となっています。そのため、農業・資源を持ちつつ、工業とIT化にも伸びしろがある、アメリカ型経済構造になれるポテンシャルを持っています。
また、ブラジルはBRICSに所属しており中国と深い関係にある一方で、ウクライナ戦争でのロシア非難決議には賛成票を投じるなど、グローバルサウスとしての中立姿勢を保っています。
グローバルサウスで存在感を発揮している国④:インドネシア
インドネシアは人口世界4位の2億7000万人、GDP世界16位と、どちらもASEAN諸国で最も高い値の国です。インドネシアがグローバルサウスで大きな発言力を持っているのは、世界一のイスラム教徒を抱える国であるためです。
イスラム教徒(ムスリム)は、2022年時点で約20億人とされています。その内の約12.5%ががインドネシアに住んでいて、現在世界一のイスラム教大国です。イスラム教徒は2100年には世界最多の信徒を抱える宗教になると見込まれており、その盟主として発言力を持てるインドネシアには第三世界代表として台頭してくると見込まれます。インドネシアは2065年頃まで人口増加が続く見込みで、2075年にはGDP世界4位の経済力を持つと予測されています。
また、これまでインドネシアはASEAN内部の外交に注力していて、世界全体への外交ではあまり目立ってきませんでした。しかし、イスラエルによるガザ侵攻では、イスラム教徒のガザ(パレスチナ)側に連帯しイスラエルを非難するなど、グローバルサウスの中で発言力を強めつつあります。
グローバルサウスで存在感を発揮している国⑤:ナイジェリア
ナイジェリアは人口2億1800万人、GDP世界32位の、アフリカ西部にある国です。ナイジェリアはアフリカで最も人口が多い国で、GDPは南アフリカやエジプトよりも高いです。ナイジェリアは多くのグローバルサウスの国を抱えるアフリカの代表として、グローバルサウスで存在感を発揮しています。
アフリカでは、アフリカ連合(AU)によってアフリカ各国の連帯感が強まっています。EUのように、移動の自由や全アフリカ議会が存在していて、将来的には共通通貨の発行や関税の撤廃も目指しています。その中で、豊富な人口と石油資源によって最も発言力を持つナイジェリアは、今後グローバルサウスの中で大きな存在として台頭してくると見込まれています。
世界各国はグローバルサウスとどんな関係を築いている?グローバルサウスの国々との関わり方
ここまで、グローバルサウスの意味や構成国の特徴などを解説してきました。では日本やアメリカ・中国などは、これらのグローバルサウスの国々とどのような関係を築いているのでしょうか?それぞれの国のグローバルサウスとの付き合い方を見ると、今後私たちがどのようにこれらの国と付き合っていくべきかが見えてきます。
ここからは、世界各国のグローバルサウスとの付き合い方について簡単に解説していきます。
アメリカとグローバルサウスとの関係性
アメリカは「グローバルサウス全体」へ積極的な関与はせず、個々の国と関係性を築く外交を行っています。グローバルサウスの中には、反米が強いイランやキューバなどの国も関わっているため、アメリカとしてグローバルサウス全体に関与することが難しい状態です。そのため、それぞれの国に対して、経済や安全保障・エネルギー・政治など協力できる項目で関わる外交戦略を取っています。
中国とグローバルサウスとの関係性
中国が進める一帯一路構想には、多くのグローバルサウスの国の協力が必要不可欠です。また、将来的にアメリカを超えるためには、西側諸国以上の国数を味方に引き入れ、国連総会で優位に立てる必要があります。そのため、中国はグローバルサウスと積極的に関係性を築いています。
一帯一路・G20・BRICS・上海条約機構・ASEAN+中国・中国+中央アジア5カ国・中国+太平洋島嶼10カ国・G77+中国など、様々な枠組みからグローバルサウスへの融資や技術提供を行い、多くの国が中国の味方になるよう多額の投資を行っています。
また、緊張関係にあるインドがグローバルサウスの盟主となることを防ぐために、「中国は未だ発展途上国である」という振る舞いを行い、自身こそが先進国と発展途上国の架け橋であると広報しています。
日本とグローバルサウスとの関係性
日本政府はODA(政府開発援助)によって、グローバルサウスとの関係強化を目指しています。日本のODAはカンボジア・フィリピン・ベトナム・タイなどの東南アジア地域で肯定的イメージが高く、EUやアメリカ・インドなどよりも高い信頼性を得ています。そのため、過去のODAで培ってきた、技術提供や産業協力・インフラ整備などをグローバルサウスの国々に行う事で、両者の連携を強化しようと考えています。
また、民間企業のグローバルサウスの国々への現地展開を支援することで、経済の観点から連携強化を目指しています。さらに、日本が議長国となった2023年のゼレンスキー大統領も参加したG7広島サミットでは、グローバルサウスへのメッセージを込めるなど、積極的に関係性の構築を望んでいます。
EUとグローバルサウスとの関係性
EUはインフラ・デジタル・気候変動対策の3点から30億ユーロの投資をグローバルサウスに行っています。特にEUは太陽光発電や持続可能な灌漑技術といった環境問題への支援を行っていることが特徴的です。
しかし、ヨーロッパはアフリカ・アジア・中南米を植民地支配してきた歴史があるため、グローバルサウスの国々は欧州との関与に慎重な姿勢を見せています。気候変動に関しても、コストの高いクリーンエネルギーよりも安価な石炭発電をグローバルサウス諸国は求めていて、ヨーロッパ先進国が引き起こした負の遺産への対応を、なぜグローバルサウスが行わなければいけないのかという反発も少なからずあります。
ロシアとグローバルサウスとの関係性
ロシアは長年に渡り、グローバルサウスの国々と良好な関係を築いてきました。安価な原油・天然ガスや、豊富な穀物の輸出、平和維持のためのロシア軍の駐留・兵器の輸出などを1960年代から続けており、ロシアはグローバルサウスの国々に欠かせない存在になっています。
また、西側諸国からの負の影響を受けているという面で、グローバルサウスの国々は反欧米でロシアに同情する感情が強いです。アフリカでは、支配的な旧宗主国のイギリス・フランスよりも、ロシアが人気を博しています。
グローバルサウスが抱える社会問題
グローバルサウスには様々な国が存在しますが、その多くの国が抱える共通の問題が存在しています。ここからは、グローバルサウスの国々が抱えている社会問題として「飢餓・貧困」「教育」「人権問題」「環境問題」の4つを解説していきます。
なお、これらの4つの社会課題は、すべてのグローバルサウスの国に当てはまるものではないことをご留意ください。
グローバルサウスが抱える社会問題①:飢餓・貧困
世界では2023年時点で、7億3500万人の飢餓者が存在していますが、その9割以上がグローバルサウスの国の人達です。グローバルサウスの国では、農業生産性が低く、災害の対策も弱いため、人口に適した食糧生産を行う事ができていません。
また、サハラ砂漠以南のアフリカ地域では、人口の35.1%が1日$2.15未満で生活しています。グローバルサウスのGDPは高まっていますが、その恩恵が一般市民まで届いていないのが現状です。
グローバルサウスが抱える社会問題②:教育
グローバルサウスの国々では、子ども達に十分な教育を受けさせることができていません。その理由は、以下の5つにあります。
- 親が教育を受けていないため、子どもに教育を受けさせるメリットが分かっていない
- 多子家庭で食糧確保のために子どもを働きに出さざるを得ず、学校に行かせてあげられない
- 紛争や内戦によって、教育を受けられる状況にない
- 教員の給料が低く、知識のある人が教員を目指さない
- ジェンダー差別が根強く、女子は教育を受けなくて良いという考えが強い
内戦が終結したばかりの南スーダンでは、男児の58%、女児の67%が小学校にも行けていない状態です。成人の識字率は27%と非常に低く、「農業機械の説明書が読めない」「国からの支援制度の資料が読めない」といった問題が発生しています。
グローバルサウスが抱える社会問題③:人権問題
グローバルサウスの国々では政権に批判的な人を逮捕したり、少数民族を弾圧したりと、人権侵害が現在でも行われています。代表的なものとしてはインドのカースト制度、エリトリアや北朝鮮での独裁政治、トルコによるクルド人の迫害、アフガニスタンでのジェンダー差別などがあります。西側諸国は、人権侵害のある国には投資しない傾向が強いため、人権問題が経済成長の機会を閉ざしています。
また、先進国がグローバルサウスの人々を安価な労働力で重労働させるという人権問題も発生しています。金鉱山では有毒ガスを吸いながら1日1ドル以下の賃金で働かされていたり、バングラデシュの縫製工場ではずさんな安全管理でビルが崩壊し1100名以上の死者を出しています。先進国の消費者が安い値段で物を買えている裏では、グローバルサウスの国々での人権侵害が行われている場合があります。
グローバルサウスが抱える社会問題④:環境問題
グローバルサウスの国々では、高価なクリーンエネルギーを導入する資金がありません。そのため、安価な石炭発電が使われることが多いですが、粗悪な石炭発電所では多くの大気汚染物質を排出します。世界で一番大気汚染が深刻と言われているパキスタンでは、死因の22%が大気汚染によるものだと言われています。
さらに、先進国が不要になったプラスチックや廃材を、グローバルサウスの国々に「資源」の名目で売却するという行為が行われています。グローバルサウスの国々ではリサイクル技術という解決策がないため、プラスチックがそのまま燃やされてさいたり、ゴミ処理場に放置されたままとなっています。これもグローバルサウスの国々に反欧米感情が湧く一因となっています。
また、フィリピンやマレーシア・タイなどでは気候変動による大雨・台風被害が相次いでいて、メキシコや南アフリカでは干ばつ被害が深刻となっています。環境問題の認知度も低いため、焼き畑農業や過剰な伐採・有毒物質の垂れ流しなどが現在進行形で行われています。
グローバルサウスの今後はどうなる?人口や経済規模の将来性はどのくらいあるのか
グローバルサウスの国々には多くの社会問題がある一方で、それらに適切な解決策がもたらされれば大きな成長の余地が残されています。今後、グローバルサウスはどこまで成長していくのでしょうか?
まず人口面では、2050年には全人口の66%以上がグローバルサウスの住人になると予測されています。
また、人口動態の変化によって、各言語の話者人口も変化します。地理・経済・意思疎通・情報・外交の5つの指標から評価するLanguage Power Index(LPI)では、2050年での言語ランキングは以下のようになっています。
2016年 | 2050年 | |
---|---|---|
1位 | 英語 | 英語 |
2位 | 中国語 | 中国語 |
3位 | フランス語 | スペイン語 |
4位 | スペイン語 | フランス語 |
5位 | アラビア語 | アラビア語 |
6位 | ロシア語 | ロシア語 |
7位 | ドイツ語 | ドイツ語 |
8位 | 日本語 | ポルトガル語 |
9位 | ポルトガル語 | ヒンディー語 |
10位 | ヒンディー語 | 日本語 |
中南米で話者が多いスペイン語と、ブラジルで使われているポルトガル語、インドで使われているヒンディー語がランキング上位に上がっているのが分かります。また、英語・フランス語はアフリカ圏での公用語として、話者人口が伸びると予測されています。
名目GDPでは、グローバルサウスは2050年にアメリカや中国を抜く規模にまで拡大すると予測されています。また、グローバルサウスは2050年以降も技術成長・市場拡大が著しいため、中長期的な投資先として注目を集めています。
日本企業はASEAN・インドへの投資は進みつつあるものの、中東・中南米・アフリカ地域では投資が進んでいません。そのため日本政府は、グローバルサウスの現地で事業や研究開発を行う企業に対して、費用の半分程度を補助する方針で動いています。2024年度には、グローバルサウスに進出する企業に補助金が出される見込みです。
今後大きな影響力と経済圏を持つグローバルサウスに対して、今のうちから行動を起こすことで、先行者利益を得られるかもしれません。
まとめ:グローバルサウスには課題も多いが、成長性も高い地域である
今回は、「グローバルサウスとは何か?」という項目で、グローバルサウスの意味や構成国の一覧、抱える問題や今後の展望などを解説してきました。
グローバルサウス自体、まだ定義の曖昧な言葉であり、注目度もそこまで高くない状態です。しかし、人口増加や経済成長が著しい地域であり、国数も多いため、今後世界の表舞台に出てくることは間違いありません。現地で起きている社会問題を1つ1つ解決していき、現地に即したビジネスを手がけ、現地の人々に望まれる形で協力をしていくことが大切です。
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