児童養護施設の職員不足問題に取り組む、チャイボラの大山遥さんインタビュー

今回は、児童養護施設や児童自立支援施設などの「社会的養護施設」の人手不足問題に取り組む、NPO法人チャイボラの大山さんにインタビューを行いました。

  • 児童養護施設で働きたいと考えている方
  • 社会的養護施設の人手不足問題について関心のある方
  • 児童養護施設に興味を持っている方

はぜひ読んでいただけたらと思います!

目次

プロフィール

【名前】
NPO法人チャイボラ 代表理事
大山 遥

【経歴】
東京海洋大学 ⇒ ベネッセコーポレーション ⇒ 児童養護施設職員・チャイボラ代表

児童養護施設とは?社会的養護の意味と定義、施設の種類について

―――本日はよろしくお願い致します。まず、児童養護施設とはどのような施設か教えて頂けますでしょうか?

はい。児童養護施設とは「社会的養護施設」と呼ばれる施設の1つです。

社会的養護施設のなかには、以下のような様々な施設が存在しています。

児童養護施設

概ね2歳~18歳までの子どもたちが生活する施設。

長期的に在籍する子どもが多く、平均在籍期間は4.7年。

保育士・児童指導員・栄養士・家庭支援専門相談員などの職種が養育を担う。児童養護施設で働くには基本的に各専門資格が必要だが、近年では無資格でも採用する施設が増えてきている。

乳児院

0歳〜3歳程度の子どもを養育する施設。

子どもの一時保護や養育支援といった、一時的な養護にも使われる。

看護師・保育士・家庭支援専門相談員・栄養士・調理師などの職種が養育を担う。

児童心理治療施設

心理的困難や苦しみを抱える20歳未満の子どもたちを、入所あるいは通所させて治療を行う施設。

児童精神科医・心理セラピスト・保育士・児童指導員などの職種が治療を担う。

児童自立支援施設

行動上の問題や発達上の課題などを抱えた子どもたちに対して、心身の健全な育成と自立を支援する施設。

自立性や協調性を身に付ける生活支援や、基礎学力を習得するための学業支援などを行う。子どもたちは施設に通所する場合と入所する場合がある。

児童自立支援専門員が担当する。

母子生活支援施設

DV被害や生活に困窮、または何らかの事情で離婚の届出ができない18歳未満の子どもを持つ母子家庭を保護し、母親の就労支援・心理支援や子どもの教育支援・生活支援などを行う施設。

母子支援員・少年指導員・保育士などの職種が対応にあたる。

自立援助ホーム

15歳~20歳の家庭にいられない子どもたちが入所し、自立を目指す施設。

主に高校に通っていない15~18歳の子どもや、児童養護施設退所後の子どもが入所する。

児童指導員などが生活支援を行う。

児童養護施設は平成23年時点で585か所あり、29114人の子どもが入所しています。(厚生労働省調べ

―――児童養護施設にいる子どもたちは、どのような子が多いのでしょうか?

児童養護施設に来る子どもは、親から虐待を受けた子の割合が最も多いです。

日本では少子化により子どもの数が減少していますが、虐待の相談対応件数は年々増加傾向にあります。虐待を受けた子どもは愛着障害やトラウマのフラッシュバックなどが起きる場合があり、児童養護施設での丁寧な対応が必要とされています。

令和4年度児童虐待相談対応件数

児童養護施設が抱える問題点とは

―――児童養護施設はこうした子ども達になくてはならない施設ですが、運営を行うための問題を抱えていると伺いました。児童養護施設では、どのような問題を抱えているのでしょうか?

児童養護施設が抱える問題点①:広報費がない

まず1つ目の問題点が「広報費を捻出できない」点です。

児童養護施設や社会的養護施設の運営資金は、国や自治体からの措置費で賄われていますが、その用途に「広報費」という項目がありません。

そのため、未だにホームページが無い施設もありますし、有料の求人サイトへの登録やSNS広告等に予算を割くことが難しいのが現状です。

児童養護施設が抱える問題点②:児童養護施設等への認知が低い

2つ目の問題点が「児童養護施設そのものの認知が低い」点です。

保育園・小学校~高校は、ほとんどの方が通いますよね。そのため、そこがどんな場所で、どんな人がいるのか、何をするのかなどのイメージができると思います。

しかし、児童養護施設は多くの方にとって馴染みがない場所です。そのため、「児童養護施設で働いてみたい」という発想に至る人が少なく、ドラマやニュースなどの影響で「暴力的な子が多いのではないか?」「悪いことをした子たちが入所する所なのではないか?」「仕事はとにかく過酷で給料もとても低いのではないか」とネガティブなイメージを持っている方もいます。

確かに、特性を持った子どももいますし、多くが虐待を経験して入所してくるので心に傷を負っている子も多いでが、そんな子どもたちの日々に寄り添う施設職員の仕事には、多くのやりがいが詰まっています。その現場のリアルが世間に発信できていないのが現状です。

給与面でも、新卒で約月収25万(手当含む)・ボーナス4ヶ月に家賃補助8万が付く所もありますし、30代で年収600万円程度になる所もあります。現状とイメージのギャップは大きいと考えています。

児童養護施設が抱える問題点③:職員の不足

これらの問題が合わさる事で、施設では深刻な職員不足が発生しています。

児童養護施設では、子ども20人対職員1人という状況で面倒を見る時間帯が大半を占める施設もあります。

3食を作り、お風呂に入れてあげて、勉強に付き合い、相談にも乗ってあげて、一緒に遊ぶ。さらに事務作業や職員会議・自治体や学校への報告なども、職員が行わなければなりません。

また、発達障害を持った子どもや心理ケアが必要な子どもがいる場合もあり、職員1人あたりの負担が非常に大きくなっています。

社会的養護が必要な子どもが4万2000人ほどいますが、全国の施設の入居可能総数は3万人ほど。職員不足が原因で手を差し伸べられていない子ども達がいるのが状態です。

児童養護施設等の職員不足を解決するために。NPO法人チャイボラの活動内容を紹介

―――これらの問題を解決するために、大山さんはチャイボラを立ち上げられたということですね。

はい。チャイボラでは日本で唯一「社会的養護施設の職員確保・定着」を目的とした活動を行っています

まず1つ目に、『チャボナビ』という社会的養護施設の求人サイトを運営しています。

チャボナビのHPはこちらをクリック

チャボナビでは、施設の方は完全無料で求人を出すことができます。もちろん、チャボナビを通した職員の採用時にも、費用は一切かかりません。

2024年4月時点で、全国401件の求人情報を掲載しています。(掲載準備中含む)

施設では「自分の施設の魅力が分からない」「見やすいスライドの作り方が分からない」といった課題を抱えている所が多いため、その施設に合った人が採用に繋がるよう、チャイボラが求人作成をお手伝いしています。

どんな子どもがいるのか、勤務形態やシフトはどうなっているのか、福利厚生や研修制度はあるのか、など施設の特徴を事細かく紹介するようにしています。

また、実際に働いている職員のインタビュー動画の掲載や、職員と直接やりとりできる機能などを用意しています。「施設に興味はあるけど中身が見えなくて怖いな」「児童養護施設で働くにはどうすればいいんだろう」といった方でも、応募しやすいようなサイト運営を心がけています。

―――チャイボラでは、チャボナビの他にどのような活動を行われているのでしょうか?

社会的養護について学ぶ講座の開催や、施設の見学会などを開催しています。見学会はリアル・オンラインの両方で開催していて、まさに今月、大規模オンライン見学フェアを実施いたします。

また、施設の職員が長く働けるような仕組みづくりの一環として、「内定時期から入職後1年間、全国の同期をオンライン研修で繋ぐ『チャボゼミ』」という新規事業を始めました。

今月開催!全国107施設が集まるオンライン見学フェアを紹介!

―――最後に、2024年5月に行われる「児童養護施設などのオンライン見学フェア」について教えて頂けますでしょうか?

はい。このイベントは全国から107の児童養護施設・乳児院・自立支援ホーム・母子生活支援施設・児童自立支援施設・児童心理治療施設が参加する、日本最大規模の社会的養護施設説明会です

2023年に実施したオンライン見学フェアの様子
数多くの社会的養護施設へオンラインで見学できる

参加者は2時間30分の中で、希望する施設2か所に話を聞きに行く事ができます。また、フリータイムの時間もあり、その時間には好きな施設に話を聞きに行くことができます。

―――今まで施設に関わりがなかった人でも、見学フェアに参加することは問題ないでしょうか?

はい!むしろ、施設に興味があるくらいの人や、就職で施設を考えているような人にぜひ来て頂きたいです。

施設で働いてみたいと思っても、施設のこと・仕事のこと・給料のことなどを知る手段があまりないと思います。

そのため、見学フェアを通してまず、施設の実状を知って頂きたいです。アルバイトやボランティア・プロボノとして関わりたい、施設に寄付をしたい、施設に就職をするか悩んでいる、という方も大歓迎です。

施設の実状を知った上で、社会的養護施設で働いてみようと思う方が1人でも増えれば良いなと考えています。

児童養護施設などのオンライン見学...
★参加費無料★児童養護施設などのオンライン見学会|チャボナビ 児童養護施設を含む、全国の社会的養護施設を1度に3施設まで見ることができる無料オンラインイベントを開催!全国を 6 つのエリアに分けて全 6 回開催します(参加費無料)

まとめ:子どもたちの健全な成長には、児童養護施設の人手不足問題の解決が不可欠

今回は、児童養護施設などの社会的養護施設の職員不足問題に取り組む、NPO法人チャイボラの大山遥さんにお話を伺いました。

施設には一言も話さず一日が終わってしまう子もいるとお伺いし、児童養護施設では自分が想像していた以上に職員不足が深刻なんだと理解しました。

また、今回の記事内では話せないような、壮絶な虐待を受けてきた施設の子の話も伺いました。私たちができることは少ないかもしれませんが、まずは施設の現状をしっかりと知ることが大切だと思いました。

ソーシャルエッグでは、ソーシャルビジネスを行っている人・社会起業家の記事が他にもたくさん用意しています。社会に良い事業に興味がある方は、ぜひ他の記事も読んでみて下さいね!

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この記事の編集者

下谷 航希のアバター 下谷 航希 編集長

現在25歳。大学3年生の頃に子ども食堂の運営に携わり、社会貢献をしている人たちが大変な思いをしながら社会貢献活動をしていることを知る。その後、地方創生ツアーやメンタルケアアプリ制作などを行い、2023年に社会課題解決に尽力する人たちの課題を解決するメディア「ソーシャルエッグ」を立ち上げ。現在はソーシャルエッグのインタビューやメディア運営、学生へのソーシャルビジネス講座などを行っている。

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