磯焼けとウニについて、漁師やウニ業者と直接現場を見る!磯焼けの現状や原因・対策を学ぶ

今回は、磯焼けとウニについて学ぶため、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環である「海と旅モニターツアー in 道南」に参加し、取材を行ってきました。

あまり聞きなれない「磯焼け」という言葉、これが現在進行形で日本全国の海に甚大な被害を引き起こしています。今回は、実際に磯焼けの現場を写真に収めつつ、漁師さんや水産業者の方々から磯焼けの現状・原因・対策などを伺ってきました。

目次

磯焼けとは何か?磯焼けの意味や原因についておさらい

まず、今回の話題である、磯焼けとは何のことなのでしょうか?

磯焼けとは、海藻が消失し海底が更地になってしまっている状態のことを指します。海の沿岸には、「藻場(もば)」と呼ばれる海藻類がよく生える場所があります。しかし、磯焼けが発生すると藻場から海藻が無くなり、「海の砂漠化」のような状態になってしまいます。

磯焼けが発生すると、海藻を食べる生物たちが消失してしまいます。また、海藻のすき間を住処とする小型の魚類も消失し、それらを食する大型の魚類も姿を消してしまいます。磯焼け問題は、海の生態系を大きく震撼させる、一大社会問題です。

磯焼けが発生する原因

磯焼けが発生する原因は、人為的なものと自然のものがあります。

人為的な磯焼けの原因としては、

  • 干潟や浅瀬の埋め立て
  • 水を浄化しすぎることによる、海中内の栄養素の減少
  • 海藻の乱獲

などが挙げられます。


自然的な磯焼けの原因としては、

  • 地球温暖化や海流の変化による、植生の変化
  • 植食動物(ウニ・巻貝・植食性魚類)が大量発生し、海藻を食べ尽くす
  • 暴風雨や土砂の流入の影響で、堆積物に海藻が埋没してしまう

などが挙げられます。

これからご紹介する北海道の道南地区では、「ウニが海藻を食べ尽くす」ことで磯焼けが発生していました。

磯焼け問題に対する全国的な対策

磯焼けは、北海道から沖縄まで日本全国で発生している問題です。

神奈川県では、磯焼けの原因として駆除されているウニを回収し、キャベツを与えることで養殖する「キャベツウニ」を生産しています。また、ウニノミクス株式会社では、駆除したウニを陸上で畜養する技術を確立しています。

このように、磯焼け問題解決のために様々な対策が行われ始めていますが、対策が始まったのはここ5年~10年の話。全国各地の大規模な磯焼け問題を解決するためには、まだまだ有効な改善方法が見つかっていないのが現状です。

「海と旅モニターツアー in 道南」とは?北海道の道南地区にて、磯焼けの現状を『直接』見て感じて学べるツアー

今回、磯焼けの現状を現地で直接学ぶため、日本財団の「海と日本プロジェクト」の一環として行われている「海と地域を結ぶ旅コンテンツの開発及び調査研究」事業の1つである、「海と旅モニターツアー in 道南」に参加してきました。

日本財団の「海と日本プロジェクト」が行う「日本さばける塾」も、以前取材させて頂きました。

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「海と旅モニターツアー」は、10代~20代の若者に、旅を通して海に親しみを持ってもらうことを目的としたツアーです。2023年から開催されていて、今回の道南ツアーはモニターとして参加させて頂きました。ちなみに道南とは、北海道の付け根付近を指す言葉で、今回は「森町」「七飯町」「八雲町」「函館市」を訪問させて頂きました。

今回の「海と旅モニターツアー in 道南」では、『磯焼け』がメインテーマとなっていて、漁港や養殖施設・漁協などを巡り、磯焼けの現状を自分の目で見て学べる1日ツアーとなっています。また、漁師さんや水産業者さんから直接、磯焼け問題についての深刻な現状を伺うことができます。

このモニターツアーには、立教大学や北海道大学の学生、旅行事業やウニの養殖事業に携わられている有識者の方々など、私含め計9名が参加しました。

掛澗漁港にて、海藻が食べ尽くされた磯焼け現場に衝撃を受ける

まず訪れたのは、森町の掛澗漁港。掛澗漁港の沿岸は元々、昆布の森として多くの昆布が獲れる漁場だったそうです。しかし現在では、ウニが昆布を食べ尽くし、元々藻場だった場所は砂漠化した「磯焼け」状態に。そんな現状を見に行くため、漁師さんに漁船に乗せてもらい、沖合へと向かいました。

5分ほど船に揺られ、沖合へ到着。ここが磯焼けの現場だということで、ゴーグルで水中を覗いてみると、まさにくっきりと磯焼けの姿が見えました。

磯焼けしている所と海藻がある所の境目が、くっきりと分かる

海底には全く海藻が生えておらず、ところどころにウニが生息しているのが目に見えます。掛澗漁港に生息しているウニは「バフンウニ」「ムラサキウニ」ですが、9月現在バフンウニは禁漁期間中だそうです。

ウニを獲る時には、海底まで届く長い網と水中ゴーグルを使います

なぜ高価なウニがたくさんいるのに、獲られず磯焼けが進行しているのか?

「これだけ高価なウニがいっぱいいるなら、すべて獲って売ればいいのでは?なぜ食べないのか?」と思うのではないでしょうか。自分も最初はそう思っていました。しかし漁師さんに話を伺うと、意外な事実が見えてきました。

まず、磯焼けしている場にいるウニは、中身が詰まっておらず味も悪いそうです。ウニは海藻を食べて中身を蓄えますが、磯焼けをしている場所では食べる海藻がありません。そのため、中身がスカスカで味も美味しくないウニばかりが生息していて、獲っても売りに出せないウニばかりだそうです。

船の上で開いてもらったウニは、磯焼けで中身がスカスカ状態

また、掛澗漁港に大量発生しているムラサキウニは、バフンウニと比べると安価で、買い取り額も低価格。ウニの価格のほとんどは「殻から身を綺麗に取り出す」工程にかかる人件費が占めているため、ウニをたくさん獲っても漁師さんの儲けは多くないそうです。そのため、積極的にウニを獲る人はいないと伺いました。

1時間の漁で獲れたムラサキウニ。これだけ売っても売上は3000円程度だそう。

さらに、ウニは餌となる海藻がなくても、岩やコンクリートを食べるため、どんどん数を増やし続けていきます。ウニは海藻を食べないまま、最大10年~15年も生きるそう。これらの原因から、掛澗漁港では現在進行形で磯焼けが進行しているそうです。

漁師さんは「磯焼けを止めたいが有効な手段がない」と話す

漁師さんは磯焼けしている漁場について、以下のように仰られていました。

元々北海道では、冬の間は海水温が低くウニが活動しなかった。ただ、温暖化の影響で海水温が上昇し、冬の間でもウニが活発に昆布を食べてしまうようになった。さらに、海水温の上昇の影響で、昆布が枯れてきている。そのため、磯焼けがどんどんと進行し手が付けられない状態だな。

また、温暖化と磯焼けの影響から、漁港で獲れる魚が変化してきている。この地域はイカが有名だったけど最近はほぼ獲れず、逆に今まで獲れなかったブリが北上してきている。このままだと、あとどれだけ漁師を続けられるか分からねぇ。

掛澗漁港で船に乗せて頂いた漁師さんの言葉

磯焼けの現場を直接目にし、漁師さんから「いつまで漁を続けられるか分からない」という話を伺ったことで、磯焼け問題の重要性についてかなり衝撃を受けました。

なぜウニは高価なのか?自分の手で中身を取り出し感じた、かなりの労力と大変さ

次に七飯町に移動し、先ほど獲ったムラサキウニを自分たちの手で中身を取り出す体験を行いました。ウニの取り出し方については、株式会社北三陸ファクトリーの渋谷さんが教えてくださりました。

  1. ウニの棘が刺さらないよう、手袋を2重に付ける
  2. ウニを割る道具をウニの口に入れ、左右にウニを割る
  3. 割ったウニの中身を崩さないように、スプーンですくう
  4. すくったウニを塩水に入れる
ウニを割る特別な道具を使って中身を取り出している

実際に自分の手でウニを取ってみると、見た目以上に難易度が高いです。また、ウニの房が崩れないように取る必要があるため、1つ取るのに5分はかかってしまいます。

参加者一同30分ほどかけて、30個ほどのウニの中身を取り終えました。ここから更に、ウニの色と型崩れによる等級分けが行われます。白く形が整っているウニが1等、黄色みがかかっていて形が整っているウニが2等、中身を取る際に形が崩れてしまったウニは3等となります。

左のウニが1等、中央のウニが2等、右のウニが3等

ウニの中身を取る際に、形が崩れてしまったウニは等級が下がってしまいます。そのため、ウニの中身取りはまだ機械化できていないそうです。ウニの中身取りから等級分けまでにかかった時間から計算すると、ウニ1つ(5房)につき150円程度の工賃がかかる計算になります。こう考えると、ウニが高価な理由の大部分が人件費によるものだということが分かりますね。

今回獲ったウニは、地元の魚と一緒に海鮮丼として頂きました。

地元で獲れた魚とウニを一緒に頂きました

磯焼けの原因となっているウニを有効活用している現場を、専門家と共に見る

次に、八雲町の落部漁協に移動し、ウニの畜養施設を見学させて頂きました。ここでは、磯焼けの原因となっている身入りの悪いウニを採集し、このかごの中に入れ、海の中でウニを畜養しています

こちらの畜養の特徴は、身入りの悪いウニに特別な餌を与えて、しっかり身が詰まったウニにする改善方法を行っている点です。北海道大学と北三陸ファクトリーが6年以上かけて開発した特別なウニ用飼料「はぐくむたね」を8~10週間与えることで、身の詰まったウニに育成することが可能だそうです。

しかし、畜養には多額のコストがかかります。そこで、畜養のメリットを生かし本来ウニが流通しない秋・冬にウニを出荷することで、通常より高値でウニを販売しています。また、畜養ウニの加工品を八雲町の「ふるさと納税返礼品」として販売することで、高価な畜養ウニでも手に取って頂けるような工夫を行っているそうです。

その後、落部漁協の鎌田専務と北三陸ファクトリーの渋谷さん、モニターツアー参加者の間で、磯焼けとウニの活用法についてディスカッションを行いました。漁業者だからこそ分かる興味深い話を伺うことができたので、一部の内容を抜粋し下記に纏めます。

ウニの殻は産業廃棄物として廃棄に1kg5円程かかると聞いた。ウニ殻の有効活用は可能なのか?

ウニの殻はカルシウムでできているため、畑の肥料として活用されている事例がある。また北海道大学では、「ウニ殻と天然ゴムを混ぜて海の肥料にする」という研究が行われている。

海外でもウニによる磯焼けは起きているのか?

世界の藻場の60%があるオーストラリアでは、「longspine urchin(主にガンガゼ)」「shortspine urchin(主にエゾバフンウニ)」と呼ばれるウニが海藻を食べ尽くしていて、大きな問題になっている。

ウニの駆除を行い、その後どういったステップで藻場が再生していくのか?

まずはウニを取った後、コンブ礁という昆布が育つ下地を植える。その後、昆布が育つ間に繰り返し寄ってくるウニを定期的に駆除する。これを継続して行っていく必要がある。

藻場再生の財源として、国から補助金が出たりするのか?

国から補助金は出ない。ただ八雲町では、行政が50%補助してくれている。

上記の質疑の他にも、有意義なディスカッションが多数行われました

磯焼けの現場を見て感じた『早急に対処しないと、日本で海産物が取れなくなる』未来

今回、「海と旅モニターツアー in 道南」に参加させて頂き、ウニと磯焼けについて現地で見て学ばせて頂きました。実際に目の当たりにした感想としては、「磯焼け問題は非常に深刻」だということ。すでに沖縄・九州・東海・東北・北海道など全国各地で磯焼けが発生してしまっています。ウニが日本各地の海藻を喰い荒らし、蝗害のように昆布やワカメなどを根こそぎ食べ尽くしてしまっています。

しかし、水産業者以外の一般の方には、磯焼け問題の深刻さが伝わっていないように思います。事実私も、このモニターツアーに参加するまで、ここまで磯焼けが進行していて、海藻や魚が取れなくなってきていることを知りませんでした。磯焼けの深刻さを多くの方に知って頂き、官民一体となって日本の海の生態系を守っていく必要があると感じました。

磯焼けについて現地を見て、現場の声を聞いてみたいという方は、今回のモニターツアーを実行してくださった『一般社団法人 海と食文化フォーラム』にお問い合わせ頂ければと思います。

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この記事の編集者

下谷 航希のアバター 下谷 航希 編集長

現在25歳。大学3年生の頃に子ども食堂の運営に携わり、社会貢献をしている人たちが大変な思いをしながら社会貢献活動をしていることを知る。その後、地方創生ツアーやメンタルケアアプリ制作などを行い、2023年に社会課題解決に尽力する人たちの課題を解決するメディア「ソーシャルエッグ」を立ち上げ。現在はソーシャルエッグのインタビューやメディア運営、学生へのソーシャルビジネス講座などを行っている。

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