日本では、出生率の減少や少子高齢化による「社会保障費の増大や人材不足」が社会問題として取り沙汰されています。
団塊世代(1947〜1949年生まれ)が75歳以上になる2025年、さらには団塊ジュニア世代(1971〜1974年生まれ)が65歳以上になる2040年に向けて、事態の深刻化が予想されます。2040年を迎えるころには、わたしたちの生活はどのように変化しているのでしょうか?
この記事では、2040年問題と2025年問題の違いや、日本の人口推移、2040年に備えるための対策について解説します。
2040年問題とは?日本の高齢者人口がピークになる状態のこと
2040年問題とは、日本の高齢者人口の割合がピークに達し、労働力人口の減少が進行することで、社会に多くの影響を及ぼすとされている「社会・経済的な課題」のことです。
具体的には、高齢者人口の増加による「年金や医療、介護などの社会保障費の増加」、労働力人口の減少による「生産性の低下や経済の成長の停滞」などが懸念されます。
高齢者とは?高齢者の定義を解説
時代や地域によって高齢者の定義は異なりますが、世界保健機関 (WHO)では、65歳以上を高齢者としています。
日本の場合、行政上の目的によって異なります。たとえば、「改正道路交通法」では70歳以上を高齢者と定義していますが、「高齢者の医療の確保に関する法律」では65歳以上を高齢者、65〜74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と定義しているのです。
厚生労働省の統計では、2020年の日本の総人口1億2,815万人のうち、65歳~74歳の割合が約14%、75歳以上の割合が約15%となっており、総人口の3割近くが高齢者にあたります。
高齢化社会とは?高齢社会と超高齢社会との違い
WHO(世界保健機関)と国連の定義では、65歳以上の人口割合が総人口に占める割合の7パーセントを超えると「高齢化社会」、14パーセントを超えると「高齢社会」、21パーセントを超えると「超高齢社会」と分類しています。
日本では、1970年に65歳以上人口の割合が7.1%となり「高齢化社会」を迎え、2010年には23.0%となり「超高齢社会」を迎えました。
2040年の労働人口は何人になる?2040年の労働人口の推移予測
2020年時点の労働人口は、約7,509万人でした。では、2040年の労働人口は何人になっているのでしょうか?
リクルートワークス研究所が発表したデータによると、2020年には約7,509万人だった「15歳〜64歳の人口」が2040年には約5,978万人まで減少すると予測されています。これにより、2030年には約341万人、2040年には約1,100万人の労働力不足に陥ると推測されています。
なかでも、「介護サービス」「輸送・機械運転・運搬」「商品販売」など生活維持サービスが深刻な供給不足に陥り、私たちの生活に大きな影響を与えることが予測されます。
職種 | 2040年需要 | 2040年供給 | 不足率 |
---|---|---|---|
介護サービス | 229.7万人 | 171.7万人 | 25.3% |
商品販売 | 438.5万人 | 329.7万人 | 24.8% |
輸送・機械運転・運搬 | 413.2万人 | 313.4万人 | 24.2% |
建設 | 298.9万人 | 233.2万人 | 22.0% |
保健医療専門職 | 467.6万人 | 386.0万人 | 17.5% |
接客給仕・飲食物調理 | 374.8万人 | 318.1万人 | 15.1% |
生産工程 | 845.0万人 | 732.6万人 | 13.3% |
日本の高齢者人口の割合がピークに達し、「社会保障費の増加や経済の成長の停滞」などの問題が危惧されているのが2040年です。
さらに近い未来に目を向けると、社会保障費の増大や労働力不足などが懸念される「2025年問題」があります。ここからは、2025年問題の詳細や2040年問題との違いについて解説します。
2025年問題とは、団塊世代が全員75歳以上になる状態のこと
2025年問題は、日本における社会問題の1つです。2025年には、団塊世代(1947年から1949年に生まれた人々)が全員75歳以上になり、国民の約18%が75歳以上、約30%が65歳以上に達すると予想されています。
これにより、介護サービスの需要増加による人材不足、医療費の増加、労働力不足、経済活動の縮小などが懸念されます。
2025年問題と2040年問題との違いは?
2025年問題と2040年問題の違いは、高齢者人口の山場の場所にあります。2025年は高齢者人口増加の「過渡期」であり、2040年は高齢者人口の「ピーク」となるとされています。
2025年問題では「財源不足や介護・医療サービスの需要の急増、労働人口の減少」などが主な課題です。一方で2040年問題は、少子高齢化がさらに進行することで「社会制度をどのように維持するか」も大きな課題の1つに含まれるでしょう。
2040年には、65歳以上の人口が全体の約35%となり、社会全体の労働力が減少することで、医療や介護などの社会保障制度の維持自体が危ぶまれているのです。
2025年と2040年の人口予測
国立社会保障・人口問題研究所が令和5(2023)年4月26日に公表した「日本の将来推計人口」によると、2020年には約1億2,615万人だった日本の総人口が、2040年には約1億1,284万人まで減少し、65歳以上の人口が全体の約35%となると推計されています。
人口(1,000人)割合(%) | 2020年 | 2025年 | 2040年 |
---|---|---|---|
総人口数 | 126,146人 | 123,262人 | 112,837人 |
0~19歳の人口(割合) | 20,738人( 16.4%) | 19,074人( 15.5%) | 15,473人( 13.7%) |
20~64歳の人口(割合) | 69,382人( 55.0%) | 67,659人( 54.9%) | 58,079人( 51.5%) |
65~74歳の人口(割合) | 17,425人( 13.8%) | 14,982人( 12.2%) | 17,010人( 15.1%) |
74歳以上の人口(割合) | 18,602人( 14.7%) | 21,547人(17.5%) | 22,275人( 19.7%) |
2040年問題の影響を受ける産業や業種と、問題に対する解決策
ここからは、2040年問題の影響を受けやすい産業や業種を解説していきます。高齢化人口の増加・労働力人口の減少によって、わたしたちの身近な産業や業種にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
医療・介護産業
高齢化にともない、医療・介護需要が急増することで、財政負担の増大、十分な医療従事者や介護スタッフが確保できないといった問題が想定されます。
特に、地方や過疎地域では、医師や看護師の不足が顕著になる恐れがあります。
【解決策】
- AIやロボット技術を活用した医療
- 介護サービスの効率化高齢者の健康寿命を延ばすための予防・健康づくりプログラムの推進
- オンライン診療による地域の医療格差の減少 など
地方公務員
日本ではバブル経済崩壊以降、地方公務員数は減少を続けており、1994年の328万2492人をピークに、2021年は280万661人(-14.7%)まで減少しています。
日本総合研究所は、2040年には「現行水準の行政サービスを維持するのに必要な地方公務員数86万人に対し、70万5,000人まで減少」し、充足率が82.3%まで低下すると予測しています。
地方公務員が減少することで、次のような 問題が進行し、現状の生活・行政サービスの提供は難しくなるでしょう。
- 警察官や消防官、公立の機関に勤める教員・医師の減少
- 公共交通などのインフラの老朽化
- 過疎地域の増加
地域のインフラが老朽化することで、道路や橋などの修繕ができず、高速道路やトンネル、橋などの事故が増加し、過疎地域の増加という悪循環を生み出します。
【解決策】
- AIやRPA(※)を活用した定型業務の自動化
- 業務の民間委託や地域運営組織を活用した業務範囲の見直し
- 他の市町村や都道府県と協力した行政サービスの提供 など
※ ロボットによる業務の自動化
製造業
労働力人口の減少により、製造現場での労働力が不足し、生産性の低下や品質や納期への悪影響、製造コストの増加などの問題が想定されます。また、引退する技術者の増加、伝統技術が継承されないといった、日本の伝統文化の衰退や消滅も懸念すべき問題です。
【解決策】
- AIやロボット技術の導入による、単純作業の自動化や技術の効率化
- 業界の安全性を高め、人材採用の間口を拡大
- 専門技術を効率的に伝えるためのスキームの構築 など
人手不足を補い、生産性を向上させるとともに、技術革新に適応することが、持続可能な製造業の発展と競争力の維持に寄与するでしょう。
不動産・建設業
野村不動産が2023年に発表した「2040年の住宅市場と課題 – Nomura Research Institute」では、2020年には新設住宅着工戸数が81万戸だったのに対し、2030年には74万戸、2040年には55万戸まで減少する見通しです。
また、少子高齢化により、2040年の住宅建設技能者数は約51万人(2020年比約63%)まで減少、特に大工人数が大きく減少していくと予測しています。
【解決策】
- ロボットやドローン、ITツールを活用した作業の自動化
- 育児休業制度やフレックスタイム制度などの導入
- 女性・シニア・外国人など幅広い人材の獲得
2040年問題に備えるために、国や政府・企業が行っている対策
2040年問題の解決に向けて、さまざまな産業や業種で「AIロボットの導入」や「就業規則の改善」「幅広い人材の確保」といった対策が講じられています。
では「国や行政、企業」ではどのような対策が検討されているのでしょうか。
「健康寿命の延伸」「デジタル技術の活用」「労働市場の改革」の3つの側面から見ていきます。
健康寿命の延伸
健康寿命延伸の実現に向けて「健康寿命延伸プラン」が2019年に策定されました。
2040年までに健康寿命を男女ともに3年以上延伸(2016年比)し、75歳以上とすることを目指しています。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
2016年の健康寿命 | 72.14歳 | 74.79歳 |
2040年までの具体的な目標 | 75.14歳以上 | 77.79歳以上 |
目標達成のためには、健康に無関心の層も含めた予防・健康づくりの推進や、地域・保険者間の格差の解消が重要なテーマとなります。
AIやロボットなどのデジタル技術の活用
医療・介護、行政、教育、サービス、製造、流通などのさまざまな分野で、ITを活用することによる生産性の向上や人材不足の解消が重要性を増しています。これにより、AIやロボットによる単純作業の代替や効率化を測ることができ、人手不足の解消や生産性の向上が期待できます。
また、労働時間の減少により、人々の健康改善やストレスの軽減も期待できるでしょう。例えば、「医療法人 徳洲会 湘南鎌倉総合病院」では、アシスタントロボット『temi』を導入。患者への入院説明や検査説明などの業務を担当し、職員をサポートしています。
労働市場の改革
日本企業と日本経済の成長のために、三位一体の労働市場改革が2023年6月に閣議決定されました。
三位一体の労働市場改革は、成長分野への労働移動を進めることで、持続的な賃上げを実現し、賃金格差を縮小させることを目的としています。この改革における柱は次の3つです。
【リスキリング支援による能力向上支援】
- 技能や知識を継続的に更新できるための、教育訓練プログラムの充実
- キャリア形成をサポートするための生涯学習の促進
【労働移動の円滑化】
- 労働者が異なる職種や業界への移動を容易にできる環境を整備
- 転職支援サービスの強化やキャリアアドバイザーの配置
【労働移動の円滑化】
- 労働者が異なる職種や業界への移動を容易にできる環境を整備
- 転職支援サービスの強化やキャリアアドバイザーの配置
2040年問題の解決に向けた取り組みを実施している企業
ここからは、2040年問題に含まれる少子高齢化や労働人口の減少などの社会課題を、テクノロジーの力で解決している企業を紹介していきます。民間企業の力で、2040年問題に対してどのような取り組みができるのでしょうか?
The Harmony Inc.
The Harmony Inc.は、介護を地域の基幹産業に変え、地域から日本の社会課題を解決するソーシャルベンチャー企業です。認知症に特化したデイサービス・老人ホームを福岡県筑豊地区で展開。「通い、泊まり、住まい」を軸にした、入り口から出口までをワンストップで提供しています。
また、認知症に特化したコミュニケーションロボット「だいちゃん」の開発・販売をしています。だいちゃんは、専門知識にもとづく会話や、かわいい歌声で高齢者や介護者をサポートしてくれる、小さくて頼もしい認知症介護のパートナーです。
株式会社アイセック
株式会社アイセックは、健診・医療データの分析を通じ、科学的なエビデンスをもとに次世代の健康づくりを想像する会社です。自治体や企業と連携し、オンラインでの健康相談を実施したり、従業員の健康管理データベースを構築したりすることで、最適な健康支援サービスを提供。一人ひとりが健康にイキイキと働ける環境作りをサポートしています。
また、新潟県加茂市で、全国初となる妊産婦に向けた「うつ症状スクリーニング」と「オンライン健康相談」を実施しました。
株式会社GROUND
株式会社GROUNDは、物流施設の省人化や作業効率化を目的とした、ロボットソリューションの導入から運用までをワンストップで支援している会社です。
たとえば、物流施設内作業の「ピッキング」工程を人との協働によって省力化する自律型協働ロボット「PEER ST」や、物流施設の床面を走行するロボットと可搬式の専用棚を組み合わせることで、棚の商品を作業者のもとに運ぶ「Ranger™ GTP」など、さまざまなロボットソリューションを提供しています。
株式会社MICIN
株式会社MICINは「医療をもっと身近に簡単に。健康医療データから一人ひとりの生き方に新しい選択肢をつくる。」をMISSIONに掲げる会社です。病院が遠方にあり毎回の通院が難しい方や、日中が忙しく時間を確保するのが難しい方の負担を減らすために、オンライン診療サービスのcuron(クロン)を提供しています。
クロンには6,000以上の医療機関が登録しており、スマートフォンやパソコン、タブレットで、予約から問診、診察、決済、医薬品の配送手続き(院内処方の場合)まで、すべてオンラインで完結させることができます。
2040年問題に備えて、私たちにできることとは?
ここまで、2040年問題の影響を受ける産業や業種、問題解決に向けた政府や企業の取り組みを紹介してきました。
では、私たちができることには何があるのでしょうか。2040年問題に備えるために、一人ひとりが身近にできることを紹介します。
未来を生きる人たちのことを想像してみる
未来の日本はどうなっているのか、自分の行動は未来に生きる人(自分も含む)たちの役に立っているのかを考えるだけでも、将来につながる持続可能な選択を意識しやすくなります。
未来のために自分を犠牲にしたり、無理をしたりする必要はありません。未来を想像する時間を作るだけでも、発想が広がり、新しいアイデアを思いつくきっかけになるかもしれません。
健康寿命を伸ばすために正しい生活習慣を身につける
わたしたち一人ひとりが正しい生活習慣を身につけ、健康寿命を延ばすことは、社会保障費の増大や労働人口の減少を解決するための大きな一歩となります。
意識的に歩く時間を作る、いつもより早く布団に入る、野菜や果物を食べるなど、気軽にできそうなことから始めてみましょう。
新しい技術やサービスに関心を持つ
労働人口の減少を解決するために、今後さまざまな業種で、AIやロボットなどの支援サービスが導入されることが予想されます。
そのような新しい分野に理解を持ち、普段から情報収集をしたり、実際にふれてみたりして勉強することも、これからの時代には必要となるでしょう。
新しいスキルや資格を取得するための勉強をしたり、自分の業界がどのように変化していくのかを調べたりすることから始めるのもよいでしょう。
2040年問題に備えて一人ひとりができることを
2040年には、社会保障費の増加や労働人口の減少による人手不足により、社会や経済に大きな影響を及ぼす恐れがあります。これらを国や行政だけの問題とせず、一人ひとりが関心を持つことが大切です。
わたしたちが身近にできることの1つとして、「健康寿命を延ばすための生活習慣の見直し」があげられます。適度な運動やバランスの取れた食事、良質な睡眠を心がけ、病気のリスクを減らすことが大切です。また、新しい技術や知識を学び、自分の可能性を広げることも、変化の激しい時代に対応するために必要となるでしょう。多様な知識を学び、知見を深めていきましょう。
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