CSV経営とは?CSV経営の意味と、CSV経営を実践する企業10社を解説!

CSV経営とは、企業が自社の事業領域に関連する社会課題解決を行う事で、経済的便益と社会的便益の両方の価値を生み出す経営手法です。今回の記事では、CSV(Creating Shared Value)経営の意味やCSVとCSRの違いなどを解説しつつ、各業種別にどのようなCSV企業の実践事例があるのかをわかりやすく紹介していきます。

本記事の内容は「経済的価値と社会的価値を同時実現する 共通価値の戦略 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文」(著:マイケル・E・ポーター、マーク・R・クラマー)を基に作成しています。

目次

CSV経営とは?

CSV(Creating Shared Value)経営とは、社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果経済的価値を生み出すという経営手法のことです。この価値のことを、共通価値(Shared Value)と呼びます。

CSV経営の特徴は、『自社の事業内容と社会課題解決を分離しない』という点にあります。例えば、「金融事業を営む企業が、ボランティアとして従業員を農作業に派遣する」という事例では、自社の事業内容と社会課題解決(農業の人手不足問題)が一致していません。「金融事業を営む企業が、マイクロファイナンスを通して農家に低金利で支援をする」という事例は、自社の事業内容と社会課題解決が一致しているため、CSV経営の一環と言えます。共通価値の創造を行うことが、CSV経営の特徴です。


CSV経営の考えは、ハーバード大学教授のマイケル・E・ポーターとハーバードビジネススクール上級研究員のマーク・R・クラマーが2011年に寄稿した「The big idea: Creating Shared Value」が元となっています。

従来の資本主義では、「企業は利益を追求し、社会的便益は後回しにする」「社会的便益はNPOやNGO・政府が行う」という考えが一般的でした。そのため、企業活動により水俣病や自然破壊・児童労働といった、数多くの社会問題が発生してきました。これらの社会問題に対処するため、政府は企業に多くの制約を課すようになり、企業は利益を上げることが難しくなってきました。

そんな中生まれたのが、このCSV経営という考えです。CSV経営では、企業が社会課題の解決を行う事で、利益を上げることができます。これにより、社会にも株主にも価値を生み出すことができ、企業自ら社会的価値を創出するため政府の制約も少なくなります。共通価値の創造こそ、企業と社会の発展に繋がるとポーターは語っています。


また、CSV経営には「インサイド・アウト」型と「アウトサイド・イン」型の2種類が存在します

インサイド・アウト型のCSVとは、「自社の事業によって社会に正の効果をもたらす」という、内から外へ影響を与える事業です。例えば「電気自動車によって社会のCO2を削減する」といったものは、インサイド・アウト型のCSVと言えます。

対してアウトサイド・イン型のCSVとは、「社会に正の効果をもたらし、それが自社の利益につながる」という、外から内へ影響を与える事業です。例えば、「農家に持続可能な農法をアドバイスすることで、長期間に渡って自社に農作物を納めてもらう」といったものは、アウトサイド・イン型のCSVと言えます。


日本でも共通価値と近い考えとして、江戸時代から「三方よし」という考えがありました。三方よしとは、「売り手」「買い手」「社会」の三方が満足するような商売が良い商売だという考えです。これも事業活動を通して社会貢献をしようという、CSV経営と近い考えです。

また、CSV経営と近い考えとして、ソーシャルビジネスがあります。ソーシャルビジネスとは、社会課題の解決を第一目標に据えて、ビジネスの力で社会課題を解決していこうという考えのことです。CSV経営では社会的価値と経済的価値を同列に扱っていますが、ソーシャルビジネスでは社会的価値を主目的にしている点が、CSV経営とソーシャルビジネスの違いです。

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CSV経営とCSR活動の違いとは?

CSVと混同されやすいワードとして、CSRがあります。CSR(Corporate Social Responsibility)とは「企業の社会的責任」とも言われ、企業が行う社会貢献活動(フィランソロピー)のことです。日本では多くの企業がCSR活動を行っています。

CSVとCSRの決定的な違いは、「自社の直接的利益に繋がるかどうか」「活動内容が自社の事業領域かどうか」です。CSVはそれ自体が事業として採算が取れるのに対し、CSRはそれ自体では採算は取れません。また、CSVは自社の事業領域と同じ領域で行い、自社の売上増加に繋がるのに対し、CSRは必ずしも自社の事業領域と同じ活動をするとは限りません。

【CSRの一例(フェアトレード)】
消費者が同じ作物に高い価格を払うことで、貧しい農民の手取り額を増やす。価値の再配分。

【CSVの一例】
農業の効率・収穫高・品質・持続可能性を高めるために、作物の育成技術を改善したり、サプライヤーなど支援者の地域クラスターを強化する。売上と利益の総額が大きくなり、農家にも企業にも両方に恩恵が得られる。ステークホルダー全員にメリットが得られる一方で、初期投資・時間が必要となる。

マイケル・E・ポーター氏は「経済的価値と社会的価値を同時実現する 共通価値の戦略 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文」にて、CSVとCSRの違いを以下のように述べています。

CSR(企業の社会的責任)CSV(共通価値の創造)
価値は善行価値はコストと比較した経済的便益と社会的便益
シチズンシップ、フィランソロピー、持続可能性企業と地域社会が共同で価値を創出
任意、あるいは外圧によって競争に不可欠
利益の最大化とは別物利益の最大化に不可欠
テーマは外部の報告書や個人の嗜好によって決まるテーマは企業ごとに異なり、内発的である
企業の業績やCSR予算の制限を受ける企業の予算全体を再編成する
CSVとCSRの違い

なぜ近年、CSV経営の考えが注目され始めているのか?

CSV経営自体は2011年に生まれた考えですが、近年様々な企業が自社事業に取り入れ始めています。近年になってCSV経営が注目され始めている理由は、主に2つあります。

1つ目の理由は、社会問題が深刻化・悪化しているからです。企業活動がグローバル化・巨大化する中で、地球温暖化や公害・人権侵害の労働・フードロスなどが、年を追うごとに悪化しています。大きな利益を追求する巨大企業は、事業活動の裏で多くの社会問題を発生させることがあり、社会問題の悪化は留まる事を知りません。

2つ目の理由は、社会意識の変化です。2010年代からSDGsの考えが広まり、「ただ安い商品を選ぶのではなく、社会に配慮した商品を選びたい」という消費者が増えてきました。パタゴニアやネスレなど、社会問題に積極的に取り組む企業の商品をあえて選んで買う消費者も増加しています。また、投資家もESG投資やインパクト投資など、サステナビリティな事業を選んで投資をし始めています。そのため、事業の拡大と社会問題解決の両方の価値を生み出せる、CSV経営の考えが注目されています。

CSV経営を始める方法

ここまで、CSV経営の座学的な情報をお伝えしてきました。では、実際にCSV経営を行いたいと思った際には、どのように始めれば良いのでしょうか?

ここからは、マイケル・E・ポーター氏が記したCSV経営の実践方法について、ネスレのネスプレッソ事業の事例と共に解説していきます。

【ネスレとネスプレッソ】
ネスレとは、スイスに本社を置く、世界最大の食料・飲料会社です。MILOやキットカットなどを手がけています。また、ネスプレッソというエスプレッソマシンと高品質なコーヒー豆の粉末が入ったアルミニウム製カプセルを組み合わせた商品を販売していて、2021年時点でコーヒー業界の世界シェア1位となっています。

ネスプレッソ Photo By Amazon.co.jp
CSV経営の実践の流れ

①:製品と市場を見直す

CSV経営では、まず社会が求めているニーズが何なのかを再度考え直します。自社がどれだけ美味しい食品を提供し売上が上がっていたとしても、その中に有害物質が含まれていたのであれば、「美味しく安全な食品を食べたい」という消費者ニーズから離れています。

まずは、自社製品によって解決できる、または解決できる可能性がある社会的ニーズや便益、および害悪を明らかにすべきです。社会的ニーズを探し続ける事で、既存市場における競合との差別化点を見つけ出すことができ、これまで見逃していた新たな市場の可能性に気付くことができます。

ただ、これまで軽視されてきた市場のニーズに対応するためには、製品の再設計や新しい流通手段の構築が必要となります。そのため、後述の②と③が必要となってきます。

【ネスプレッソの事例】
ネスプレッソのコーヒー市場では、気候変動により2050年までにコーヒー生産に適した地域が最大50%減少するとされています。また、世界で約1億2500万人の人々が生計をコーヒー栽培に依存しており、コーヒー農家の80%が貧困ライン以下で生活していると推計されています。

また、ネスプレッソ事業を行うにあたり、消費者には手軽に美味しいコーヒーを飲みたいという社会的ニーズがありました。しかし、多くのコーヒー農家は低い生産性・粗悪な品質・収穫高を制限される劣悪な環境であったため、高品質なコーヒーを安定的に供給することが難しいという問題がありました。

②:バリューチェーンの生産性を再定義する

バリューチェーンとは、製品の生産から販売までの一連の流れのことです。生産・流通・マーケティング・小売など、販売までの過程の工程すべてがバリューチェーンに含まれます。

バリューチェーンの中では、CO2の排出や労働条件、など様々な社会問題が発生する可能性があります。その一方で、バリューチェーンの運営にはコストがかかるため、バリューチェーンの効率化はコスト削減に繋がります。包装紙を減らすことで廃棄物削減&コスト削減に繋がったり、運送ルートの改善でCO2削減&コスト削減に繋がります。また、原材料を調達する際に共通価値を創出する仕組みを作る事で、長期的に見て高い生産性を生み出すことができます。

【ネスプレッソの事例】
ネスプレッソでは、安定的に高品質なコーヒーを調達するために、調達プロセスの見直しを行いました。例えば、農法に関するアドバイスを行ったり、銀行融資を保証したり、苗木・農薬・肥料などの必要資源を支援するなど、コーヒー農家と密に協力しました。また、コーヒー豆の品質を測定する施設を現地に設置し、購入時に高い品質の豆には価格を上乗せして農家に直接支払いました。

これらの改善によって、1ha当たりの収穫量は増加し、高い品質のコーヒーが安定的に生産されるようになり、コーヒー農家の所得が増えました。また、適切な農法を用いることによって、農地への環境負荷が軽減されました。

③:地域社会にクラスターを形成する

クラスターとは、同種の産業が集中的に集まる場所のことです。IT産業が集まるシリコンバレー、金融産業が集まるウォール街、自動車産業が集まる豊田市などがクラスターに当たります。

事業を行う地域をクラスター化することで、輸送コストの削減や関連事業同士の相互協力の促進、従業員教育の効率化といったメリットを享受することができます。また、地域社会と協力することで、住民の所得・購買力の向上や行政との連携施策などが行えるようになり、経済的発展と社会的発展の共同価値をもたらすことができます。

【ネスプレッソの事例】
ネスプレッソ事業でも、地域クラスターの形成を行い、大きな成果を収めました。まず、現地の生産効率・品質の向上のために、コーヒー栽培地に農業・技術・金融関連の企業やプロジェクトを立ち上げ、地域をクラスター化しました。また、苗木や肥料・灌漑設備などを提供したり、湿式製粉施設の建設に資金援助したり、地域農家への教育プログラムを実施しました。これにより、農家は進んでネスレで働きたいと思うようになり、地域社会と良好な関係を築きながら、コーヒー生産に必要なクラスターを地域に作り上げました。

ネスレ日本
サステナビリティ 共通価値の創造 (CSV) は、すべてのステークホルダーに長期的なプラスの影 響を与える方法です。ネスレのサステナビリティについて、詳しくはこちらを ご覧ください。

CSV経営を行うメリットとは?

CSV経営とは、社会的価値と経済的価値の両方を創出することができる経営手法です。では、企業側はCSV経営を行うことで、どのようなメリットがあるのでしょうか?

ここからは、CSV経営を取り入れることによるメリットを5つ、わかりやすく解説していきます。

CSV経営を行うメリット

①:投資や融資が受けやすくなる

CSV経営を行うメリットの1つ目は、投資や融資が受けやすくなることです。

近年、投資家や投資会社は、投資先を選ぶ中で企業の社会的価値を重要視しています。ESG投資という考えでは、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)の3つに配慮している企業に投資を行います。世界最大規模の投資機関であるGPIFでは、総額12.5兆円規模のESG投資を行っています。また、ダイベストメントと呼ばれる、環境に負荷をかける事業への投資を引き揚げようという潮流も始まっています。

さらに、CSV経営を行っている企業のみが受けられる融資も存在しています。日本政策金融公庫の「ソーシャルビジネス支援資金」や、三井住友銀行の「ポジティブ・インパクト金融適合型ESG/SDGs評価融資」などが存在しています。

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②:社会的価値を重視する消費者からの購買を得られる

CSV経営を行うメリットの2つ目は、社会的価値を重視する消費者からの購買を得られることです。

ある程度裕福な消費者は、多少価格が高くとも社会的価値のある商品を選ぶ傾向にあります。ヨーロッパにおいては特に顕著で、CO2排出を減らす努力をしている企業に与えられる「カーボン・トラスト」マークや、環境汚染が少ない商品に与えられる「EUエコラベル」などが存在しています。また、社会に良い物のみを購入しようという「エシカル消費」という考えは日本での普及しつつあります。

これらの消費者は、社会的価値があれば高価格帯の商品でも購入してくれるため、企業にとって優良な顧客となり得ます。

③:競合との差別化ができる

CSV経営を行うメリットの3つ目は、競合との差別化ができることです。

従来、消費者は価格が安さを重視して商品を選ぶことが多かったです。しかし、社会的価値を重視する消費者は、価格よりもその商品がもたらす社会的価値を重視します。そのため、CSV戦略では同業他社と価格勝負をせずに済むため、粗利率を高くすることができます。

また、これらの消費者は企業の理念に賛同する「ファン」となってくれます。ファンマーケティングでは、ファン自ら商品の良さを広めてくれたり、他社から似た商品が出ても他社に流れにくいといったメリットも存在します。

④:新たな事業パートナーを獲得できる

CSV経営を行うメリットの4つ目は、新たな事業パートナーを獲得できることです。

CSV経営では、従来目を向けてこなかった地域社会やバリューチェーンの人々に目を向ける必要があります。そのため、新たな提携先を見つけたり、地域の企業と提携することができるかもしれません。

また、CSV経営では政府やNPO・NGOとも協力して事業を進めていくため、営利分野では関わりが薄かった非営利分野のパートナーを獲得できる可能性があります。

⑤:従業員の満足度向上に繋がる・採用希望者が増加する

CSV経営を行うメリットの5つ目は、従業員の満足度向上に繋がる・採用希望者が増加することです。

2023年の調査では、新入社員が「仕事を通して成し遂げたいこと」の4位に「社会に貢献したい」という項目が入っています。優秀な若者ほど、就職先を選ぶ際に「その仕事で社会に貢献できるか」「SDGsを目指した企業理念か」を重視する傾向が高まっています。そのため、CSV経営を通して社会的価値を生み出すことは、優秀な人材が自社を選びたいと思う要因に繋がります。

また、自社にCSV経営を取り入れることで、「社会課題解決のために働いているんだ」と従業員が働く意義を持ってくれます。これにより、労働意欲の上昇や離職率の低下に繋げることができます。実際、自社にCSV経営を取り入れた「株式会社Innovation Design」の和田さんは、以下のように語っています。

下谷

会社の方針をサステナブルを基準にしたことで、社員さんの心持ちで変わった事はありましたか?

和田

そうですね、「弊社の向かう方向がわかりやすくなった」というのはありましたね。私たちは社会にとって良い仕事を行っているという認識は、仕事のモチベーションに繋がっています

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CSV経営のデメリット、難しい点は?

CSV経営には「初期投資に費用が掛かる」「成果が出るまで時間がかかる」「1社が生み出す社会的価値で社会問題そのものを解決する事は難しい」といった、3つのデメリットが存在します。

まず、CSV経営を行うためには、バリューチェーンの改革や地域社会への投資など、多くの初期費用がかかります。また、これらの改革の効果が数値として現れてくるまでには、数年の歳月を要します。そのため、すでに動かしている事業をCSV戦略に置き換える場合には、相応の労力が必要となり簡単にはできるものではありません。

また、自社の取り組みのみで社会問題そのものを無くすことは、非常に難しいです。地球温暖化や貧困問題・少子高齢化といった社会課題を、1社のみの力で解決することは難しいため、「どれだけの社会的価値(ソーシャルインパクト)を出せば成功と言えるのか」というKPIを設定しておくことが大切です。

業種別、CSV経営の実践企業を10社紹介!

ここからは、業種別にCSV経営を実践している企業を国内外10社解説していきます。実際に自社でCSV戦略を取り入れたいと考えている方は、近い業界のCSV企業の事例を参考にして頂ければと思います。

金融業界のCSV経営実践事例

M-Pesa

M-Pesaは、ケニアの通信事業者「Safaricom」が手がける、モバイル決済・送金サービスです。M-Pesaショップにて現金をチャージする事で、公共料金の支払いや家族への送金がモバイル上で簡単に行えます。また、M-Pesaを通してローンを借りることも可能です。さらに、M-Pesa上にあるお金は現金に戻すことが可能なため、携帯電話があれば銀行レスでお金をやり取りする事が可能です。

ケニアでは人口の約80%がM-Pesaを使用しており、ケニアのGDPの50%以上がM-Pesa上で取引されています。


①:製品と市場を見直す
アフリカでは、地方から都会・海外に出稼ぎに行く人が多い。出稼ぎ先から故郷の家族へ送金をしたいが、アフリカの地方では銀行やATMが存在せず、銀行口座を持っている人も少ない。ただし、携帯電話の普及率は98%を超えている。

②:バリューチェーンの生産性を再定義する
SMSに送金機能を追加。さらに、送金したお金を現金化できるシステムを開発。

③:地域社会にクラスターを形成する
ケニア全土にM-Pesaが利用可能な代理店を配置。さらに、コンビニやガソリンスタンド・公共施設などあらゆる店舗と交渉し、M-Pesaを決済サービスとして利用可能にした。その結果、ケニアという国自体をM-Pesaのクラスターとした。

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グラミン銀行

グラミン銀行は1983年にバングラデシュで設立された、貧困層向けに低金利・無担保の融資事業を行うマイクロファイナンス機関です。2014年時点では864万人の顧客を抱えており、発展途上国の貧困層向けサービスながら、年間500万ドルの利益を出しています。

グラミン銀行と設立者のムハマド・ユヌス氏は、「底辺からの経済的および社会的発展の創造に対する努力」という理由から、2006年にノーベル平和賞を受賞しています。


①:製品と市場を見直す
バングラデシュの貧困層は農業に従事していることが多いが、農具や種を買うにはお金がかかる。また、凶作になることも多い。担保となる資金がないため銀行から融資を借りることができず、民間の高利貸しからお金を借りることになるが、現地の利率は年率100%を超えている。また、貧困層は勤労意欲が低いなど社会習慣が悪いためお金を返せないと考えられていて、貧困層向け融資事業の成功例はほとんどなかった。

②:バリューチェーンの生産性を再定義する
担保の代わりに5人組のグループを作り、それぞれが他の4人の返済を助けるシステムを考案。また、銀行スタッフが毎週村に赴いて手続きを行うことで、借入者の状態を把握することができ、返済が難しくなる前に適切なアドバイスを行うことができる。また、「16の決意」と呼ばれる価値観を借入者に徹底させることで、貧困層の社会習慣を改善した。

③:地域社会にクラスターを形成する
銀行スタッフが毎週村を訪れた際に、その村の借入者を集めてウィークリーミーティングを実施。地域の借入者同士で農業技術を共有したり、相互互助するなど、グラミン銀行を中心としたクラスターを作り上げた。

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農業業界のCSV経営実践事例

ジェイン・イリゲーション・システムズ

ジェイン・イリゲーション・システムズは、インドの大手灌漑システムメーカーです。ジェイン社は少量の水を効率的に散水する「マイクロ点滴灌漑システム」を世界126カ国で提供しています。


①:製品と市場を見直す
砂漠化によって降雨量が減少した地域では、多量の水を消費する従来の灌漑システムが使えなくなる。また、従来の灌漑システムは、地表から多量の水分を蒸発させるため、塩害を引き起こし農業ができない土地を生み出してしまう。

②:バリューチェーンの生産性を再定義する
少ない水分でも効率的に作物が育つ、マイクロ点滴灌漑システムを開発。

③:地域社会にクラスターを形成する
点滴灌漑システムの製造には、チューブやフィルター・バルブ・肥料ポンプ・配管など様々なパーツが必要になる。そのため、生産工場をインドのマハーラーシュトラ州ジャルガーオン県に集中させ、クラスターを作り上げた。

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株式会社コメリ

コメリは農機具・資材・建材を中心に扱うホームセンターです。主に農業が盛んな地域に店舗を展開していて、作業用一輪車や耕運機、鍬や米袋などを販売しています。

安価で圧倒的な品揃えの「パワー」、地域に沿った商品を利便性の高い立地で販売する「ハード&グリーン」、インテリア用品専門の「アテーナ」、資材・建材・工具・金物を専門に扱う「PRO」の4形態の店舗を展開しています。


①:製品と市場を見直す
LPガス・石油の販売事業を行っていたが、オイルショックで経営危機に。そんな際、アメリカ視察でホームセンターという業種を知る。創業地の新潟県三条市は、日本一の金物産地で、米を主体とした農業も盛んな地域だった。

②:バリューチェーンの生産性を再定義する
DIY用品や家庭用商品といったtoC向けのホームセンターではなく、農家向けのtoB向けホームセンターを展開。「船団方式」という大商圏に大型店を出店し、その周りの小商圏に小型店を出店するという戦略によって、流通を最適化。船団方式によって、人口が少ない農業地帯にも小型店を出店することを可能とした。

③:地域社会にクラスターを形成する
農家の需要に答えるため、農業アドバイザーによる営農支援や、農家と消費者を直接繋ぐEC産直市場を開設。また、「収穫期払い」という農作物の収穫期に纏めて支払いをできるコメリ・アグリカードを発行。さらに、地域に合った農薬や肥料・農機具を販売することで、その地の農家クラスターの中心となった。

株式会社コメリ企業サイト
サステナビリティ | 株式会社コメリ企業サイト ホームセンターを全国展開する「コメリ」のサステナビリティについてのページです。

食品業界のCSV経営実践事例

株式会社伊藤園

伊藤園は日本の飲料メーカーです。「お~いお茶」「健康ミネラルむぎ茶」「1日分の野菜」といった飲料を製造・販売しています。

そんな伊藤園では、「茶産地育成事業」というCSV事業を行っています。


①:製品と市場を見直す
日本では飲料としての茶葉需要が増えているが、就農者の高齢化や後継者不足などの理由で、茶農家が減り続けている。

②:バリューチェーンの生産性を再定義する
高品質な茶葉を生産できるよう、茶農家に栽培指導や技術提供を実施。また、茶葉を全量買取する契約を行う事で、茶農家が安定して営農を行う事ができ、設備投資や雇用拡大・品質の向上に取り組めるようにする。

③:地域社会にクラスターを形成する
荒廃農地を地元の自治体・企業に茶園に作り替えてもらい、伊藤園が茶葉生産に関する技術やノウハウを提供。また、現地に農業生産法人を設立し、雇用創出に繋げる。

伊藤園 CSR/ESG
茶産地育成事業トップ | 伊藤園 サステナビリティ 伊藤園は、お茶のリーディングカンパニーとして茶産地育成事業を通じ、茶農業の発展に貢献していきます。

アサヒバイオサイクル株式会社

アサヒバイオサイクル株式会社は、飲料メーカーのアサヒグループの研究部門です。本業のビール製造で得た酵母の知見を活かし、飼料事業・肥料事業・食品堆肥化事業を手がけています。


①:製品と市場を見直す
ビールの製造では、酵母や微生物を取り扱う。ビール事業を継続していくためには、原料となるホップや麦芽が必要となるため、持続可能な農業・自然環境が求められる。

②:バリューチェーンの生産性を再定義する
ビール以外で活用しきれていなかった酵母技術を用い、少ない飼料で家畜を育てることができる飼料添加物「カルスポリン」や、ビール酵母細胞壁由来の肥料、食品ロスを効率良く堆肥化できる堆肥化促進剤「サーベリックス」などを開発。

③:地域社会にクラスターを形成する
従来低温で稲が育ちにくかった北海道網走地区の農場と契約し、ビール酵母細胞壁由来の肥料を用いた稲作プロジェクトを実施。網走青年会議所や地元の小学校とも連携し、地域一体で本肥料を使った稲作を広げる。

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アパレル業界のCSV経営実践事例

パタゴニア

パタゴニアは、アウトドア用品を手がける企業です。登山用具やサーフィン用具などを販売しています。パタゴニアは1991年からCSV経営を開始し、2025年までに「石油を原材料とする製品をゼロにする」「すべてのパッケージを再利用可能なものにする」という目標を掲げています。


①:製品と市場を見直す
アパレル産業では、全世界の約6.7%のCO2を排出している。綿花の栽培地では児童労働や低賃金での重労働が行われている。また、綿花の栽培には多量の水を消費し、染料には重金属が使われている。さらに、生産された衣服の6割が一度も着られることなく廃棄されており、発展途上国では衣服の埋め立て問題により環境破壊が起きている。

②:バリューチェーンの生産性を再定義する
環境負荷を減らすために、コットンの全量をオーガニックコットンに切り替える。また、原材料の98%をリサイクル原料にすることで、環境負荷を抑えつつコスト削減に繋げる。自社が使うエネルギーも再生可能エネルギーに置き換え。さらに、自社で修理部門を設けることで、衣服の廃棄量削減に取り組む。

③:地域社会にクラスターを形成する
オーガニックコットンの栽培を目指す綿花農家には、技術提供と報酬を与える。インドでは150件以上の農家と協力し、リジェネラティブ・オーガニック・サーティファイド・コットンの試験プログラムを実施。

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株式会社マザーハウス

株式会社マザーハウスは、レザーバッグやレザーの財布・ケースなどを手がける企業です。発展途上国の素材や技術・文化を用いて、高品質な商品を販売しています。


①:製品と市場を見直す
途上国の職人たちは、1枚1ドル以下の金額で安い服を作らされている。また、途上国では「仕事に一生懸命に取り組み良い商品を作る」という意識が高くなく、詐欺や適当な仕事が横行している。さらに、格安アパレル企業のような薄利多売戦略は取れず、「途上国で作った商品」を理由に、普通の商品を高い値段で買ってくれる顧客は少ない。

②:バリューチェーンの生産性を再定義する
価格でなく質で顧客に満足してもらえるよう、きちんと高品質な製品を生産する。そのために、信頼できる現地職員が選んだ腕利きの職人を雇い、環境の整った工場を用意する。徹底的に商品の質を追求するとともに、「良い物を作ろう」という文化を従業員に浸透させる。

③:地域社会にクラスターを形成する
現地の工場から素材を集め、その地域内で商品を生産。また、グリーンファクトリーと呼ばれる、工場や病院・学校などが集まるコミュニティ型工場を建設し、その地域の人々が集まる場所を作り上げた。

マザーハウス 公式サイト
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IT業界のCSV経営実践事例

シスコ・システムズ

シスコは世界最大のコンピュータネットワーク機器開発企業です。クラウドやデータセンター、企業向けセキュリティサービスなどを提供しています。

シスコのCSV事業はアウトサイド・イン型で、途上国や貧困地域に無償でプログラミング教育を行っています。


①:製品と市場を見直す
社会全体としてエンジニア人材が不足していて、この問題は年々加速している。優秀なエンジニアを雇うには多額の費用がかかる。

②:バリューチェーンの生産性を再定義する
途上国や貧困地域に、無償でプログラミング教育を提供する。これにより、エンジニア人材不足を解消しつつ、低所得層の所得向上に繋げる。さらに、優秀な人材は自社で雇うことで、他社よりも早い段階で安価に優秀な人材を確保できる。

③:地域社会にクラスターを形成する
これまで1750万人にプログラミング教育を提供し、世界各地にシスコのシステムを扱えるエンジニアを育成。そのエンジニアが主体となり、地域社会にシスコのサービスを導入することで、シスコをハブとしたネットワークサービスを地域に構築する。

Cisco
シスコが取り組む企業の社会的責任 シスコは、従業員、地域社会、地球にプラスの影響をもたらす責任があると考えています。私たちは、良き企業市民になるよう努めています。

東成瀬テックソリューションズ株式会社

東成瀬テックソリューションズ(通称:なるテック)は、秋田県東成瀬村に社屋があるIT企業です。東成瀬村となるテックが共同で出資する第三セクター方式の企業で、「東成瀬村を豊かにする」「日本の若者全体を豊かにする」ことを目的としています。


①:製品と市場を見直す
東成瀬村では、雪害や少子高齢化・後継者不足などの問題が存在している。また、IT業界では人手が不足している。さらに、日本の若者は給料が低く、育児支援も少なく子育てに適した土地も少ない。

②:バリューチェーンの生産性を再定義する
東成瀬村に会社を置き、都市部からIT未経験の若者を採用。働きながらIT教育を行うことでスキルを付けさせた後、都市部から受託した高単価のリモート案件に就いてもらう。子育て支援を充実させ、自由な働き方を推奨することで、東成瀬村への若者の定着を目指す。

③:地域社会にクラスターを形成する
東成瀬村と共同で子育て支援策を実施。また、小中学校の学力全国一位という利点を生かし、なるテックが小中学校へのICT教育を実施。また、地域の人たちと雪下ろしや特産品の開発などを行い、地域との関係性構築を実施。

【公式HP】なるテック|東成瀬テッ...
【公式HP】なるテック|東成瀬テックソリューションズ株式会社 なるテックのコーポレートサイトです。なるテックは、秋田県東成瀬村が出資する第三セクター方式のテクノロジー企業です。

CSV経営を学べるおすすめの本を4冊紹介!

経済的価値と社会的価値を同時実現する 共通価値の戦略 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文

今回の記事の基となった、マイケル・E・ポーター氏とマーク・R・クラマー氏の論文です。論文ではありますが語り口は通常のビジネス書と変わらず、日本語に訳されているため非常に読みやすいです。CSV経営の走りとなる理論が纏まっているため、CSV経営を学んだことがない方にはまずこの本をおすすめします。

CSV経営戦略―本業での高収益と、社会の課題を同時に解決する

この本の著者は、マイケル・E・ポーター氏の下で学んだ名和 高司氏です。様々な日本企業のCSV経営アドバイザーを務める名和氏が、日本企業がどうCSV経営を自社の経営戦略に取り込み、飛躍に繋げていけるかを解説しています。上記の論文でCSV経営の基礎を理解した後は、この本を読むことをおすすめします。

社員をサーフィンに行かせよう――パタゴニア経営のすべて

本記事で紹介した、パタゴニアの経営手法が纏まっている本です。ごく普通のアパレル企業だったパタゴニアが、どのようにしてCSV経営を主体にした企業に生まれ変わったかが纏まっている一冊です。すでに事業を運営していて、その事業をCSV経営主体に置き換えたい、と考えている方にはこの本をおすすめします。

9割の社会問題はビジネスで解決できる

『ソーシャルビジネスしかやらない会社』のボーダレス・ジャパンを立ち上げた、田口一成さんの本です。日本・海外で30社以上のCSV経営の企業を起業しているボーダレスジャパン・グループ。その会社を立ち上げた田口さんが、CSV経営を行う企業の立ち上げ方について記しています。これからCSV経営の事業を立ち上げたい、と考えている方にはこの本をおすすめします。

まとめ:CSV経営は、社会の利益と自社の利益の両方を生み出す、サステナブルな経営手法

今回は、CSV経営について解説してきました。CSRや企業ボランティアは、採算が悪化した際に真っ先に切られてしまう部門です。しかし、CSV経営の事業なら、収益を上げていればまず切られることはなく、持続可能でサステナビリティな事業形態と言えます。

多くの企業がCSV経営を取り入れることで、社会・環境全体がより良くなり、長期的に成長できる未来を作り上げることができます。ぜひ自社の事業にCSVを取り入れることを、考えてみてはいかがでしょうか?

ソーシャルエッグでは、ESG投資やソーシャルビジネスなど、他にも様々なソーシャルグッドな事業形態を紹介しています。また、CSV経営を行う企業・事業者へのインタビュー記事などもありますので、ぜひこちらも見てみてくださいね。

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この記事の編集者

下谷 航希のアバター 下谷 航希 編集長

現在25歳。大学3年生の頃に子ども食堂の運営に携わり、社会貢献をしている人たちが大変な思いをしながら社会貢献活動をしていることを知る。その後、地方創生ツアーやメンタルケアアプリ制作などを行い、2023年に社会課題解決に尽力する人たちの課題を解決するメディア「ソーシャルエッグ」を立ち上げ。現在はソーシャルエッグのインタビューやメディア運営、学生へのソーシャルビジネス講座などを行っている。

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