ソーシャルビジネスとは、社会問題解決を目的としたビジネスと定義されています。日本では2000年代からソーシャルビジネスを行う企業(社会的企業)が増えてきて、2015年時点では日本にある社会的企業は20.5万社とされています。
今回は、そんなソーシャルビジネスに携わる日本の企業を、大企業から中小企業・ベンチャー企業まで11例の一覧で紹介していきます。
株式会社ボーダレス・ジャパン:多様なソーシャルビジネスを生み出す社会起業家のグループ
株式会社ボーダレス・ジャパンは、「ソーシャルビジネスしかやらない会社」として、2007年に田口一成さんが設立した社会的企業です。ボーダレス・ジャパンの特徴は「様々な社会課題を解決する、社会起業家を輩出し続けている」点です。
ボーダレス・ジャパンは、海外の発展途上国の貧困問題に取り組む「AMOMA」「ビジネスレザーファクトリー」や、環境問題・再生可能エネルギーに取り組む「ハチドリ電力」、外国人居住者問題に取り組む「ボーダレスハウス」など様々な社会的企業によるグループ会社です。これらの企業は、全てボーダレス・ジャパンが輩出した社会起業家によって創設されています。年間10社以上のソーシャルビジネス起業を実行できる背景に「恩送りシステム」と「徹底した起業家サポート」があります。
恩送りシステム
ボーダレス・ジャパンでは、各社の余剰利益をすべてグループ内共同資金に入れています。この余剰利益を用いて、新しい起業家へ最大1500万円の投資を行い、新たなソーシャルビジネス企業を生み出します。この新規事業が黒字化した後には、自分自身も恩送りをする立場になり、新しい起業家を生み出していきます。
徹底した起業家サポート
ボーダレス・ジャパンで新しく起業した社会起業家は、既にソーシャルビジネス事業を軌道に乗せた先輩社長たちからアドバイスを受けながら、事業を進めていく事ができます。ボーダレス・ジャパンには多くの成功例・上手く行かなかった例の事例があるため、それらを参考にすることができます。
また、スタートアップスタジオとバックアップスタジオの2つの機能が、社会起業家たちをサポートします。マーケティングや広報・人事・法務など、1人の社会起業家が手を回しにくい所を両スタジオがサポートしてくれることで、起業家は事業に専念することが可能となっています。
株式会社ジェイアール東日本企画:地域密着型の地域活性化ソーシャルビジネス
広告やコンテンツビジネスを手がける大企業のJR東日本企画は、ソーシャルビジネス・地方創生本部を運営しています。ここでは、JR東日本企画の強みである地域沿線との結びつきから、地方創生・地域活性化のソーシャルビジネスを手がけています。
例えば「世界遺産五箇山の観光資源を活かしたコンテンツ造成事業」では、富山県白川郷でサイクリングを通した文化体験ツアーを実施しています。合掌造りの集落や伝統芸能、自然の景観などを楽しめるツアーを実施し、五箇山地域の滞在期間向上・ブランディングの強化を行っています。
また、「京丹後市 京丹後産食材ブランド創造事業」では、京都府京丹後市の食材のブランディングと販路拡大支援を行っています。京丹後市は、豊かな海と山の幸があり、食材としての評価が高いが、知名度がまだまだ高くないという課題があります。そこで、京丹後市の食材を使った商品を開発し、開発した商品をJR東日本企画が宣伝を行うことで、知名度の向上と販路拡大を目指しています。
この他にも、茨城県大子町のサイクリングツアー事業や、銚子電鉄×エンターテインメント作品のキャンペーン、地域のアンテナショップの経営なども行っています。
株式会社JR西日本コミュニケーションズ:コンテンツを活かした地域活性化ソーシャルビジネス
一般広告や鉄道広告を手がけるJR西日本コミュニケーションズは、コンテンツを用いた地域活性化ソーシャルビジネスを得意としています。
例えば、「バーチャル大阪駅プロジェクト」。メタバースの大阪駅を制作し、仮想空間上の大阪駅とリアルの大阪駅を掛け合わせた取り組みを行いました。ここでは、VTuberとタイアップしたコラボカフェを展開したり、特急への仮想乗車体験ができるなど、デジタル×リアルで大阪駅を盛り上げています。
また、島根県出雲市の観光PR事業として、「神在月のこども」というアニメーション映画の製作にも携わっています。広報やPRだけでなく、JRに乗って聖地巡礼を行うツアーを行うことで、出雲市への観光客増加を手がけました。
位置情報ゲーム「駅メモ」「アワメモ」とのコラボでは、小浜線沿線の観光地と協力し、駅や地域の観光スポットを巡るデジタルスタンプラリーを実施しています。
株式会社REGIE:地方の医療者不足を解決する「旅する薬剤師」「旅する看護師」
株式会社REGIEでは、「旅する薬剤師」「旅する看護師」という地方の医療従事者不足を解決するためのサービスを手がけています。
地方では高齢化によって医療人材の不足が慢性化していて、急な離職や産休で薬剤師が足りなくなると、新しい人材を集めることが非常に困難です。また、医療従事者は一度病院で働き出すと、かかりつけ医としてその病院固定で働くことも多く、他の病院で働いてみることが難しいです。
そこで本サービスでは、一時的な薬剤師不足に陥っている地方の薬局・医療機関と、まずは軽く地方で働いてみたい薬剤師・看護師をマッチングするサービスを手がけています。
株式会社クラダシ:フードロスの可能性がある食品をお得な価格で販売
株式会社クラダシは「Kuradashi」というソーシャルグッドなオンラインショップを運営している社会的企業です。Kuradashiでは、フードロスになる可能性がある食品をお得な価格で販売しています。例えば、オフシーズンのため通常の販路で販売できなくなってしまったさくらんぼ、型崩れが起きてしまったクッキー、まだ食べられるものの賞味期限が近づいてしまったぜんざいなどです。これらを安価な値段で販売することで、フードロス削減に取り組んでいます。
また、Kuradashiでは購入金額の一部が社会貢献団体に寄付されます。SDGs17項目に当てはまる16か所の寄付先から、寄付先を顧客が自由に選ぶことができ、誰もが気軽に社会貢献に参画することができます。
クラダシ代表の関藤さんは、商社時代に大量に捨てられる食べ物を見て、この大きな日本の社会問題を放ってはおけないという使命感から起業したソーシャルアントレプレナー。そのため、クラダシは「日本で最もフードロスを削減する会社」をビジョンとして掲げています。
オイシックス・ラ・大地株式会社:簡単に料理できるミールキットでフードロス削減
オイシックス・ラ・大地株式会社は、下ごしらえが終わった状態で食材が届くミールキット「Kit Oisix」や、産地直送のお取り寄せサービス「産直おとりよせ市場」などを手がける社会的企業です。Kit Oisixは料理をする時間が無いが、ちゃんと料理をして身体に良いものを食べたいというニーズを満たすため、20分以内で作れるミールキットを提供しています。季節ごとのメニューや、人気のシェフとのコラボメニューなどもあり、誰でも簡単に美味しい料理ができると高い評判を得ています。
オイシックスは全国4000軒の農家と契約をしていて、生産の過程で廃棄されてしまうキノコを買い取って料理に活かすなど、フードロス削減にも積極的に取り組んでいます。「Upcycle by Oisix」という食のアップサイクルブランドも手掛けていて、大手コーヒーチェーン「PRONTO」で捨てられていたコーヒーかすをアップサイクルしたチョコあられや、CHOYAの梅酒で使い終わった梅の種をアップサイクルしたドライフルーツ、ブロッコリーの茎をアップサイクルしたブロッコリーの茎チップスなどを販売しています。
これらの取り組みから、食品廃棄率は0.2%と、一般小売平均の5%~10%よりかなり低い数値になっています。
株式会社コル:社会課題に挑む人の力を結集して日本をSXする
株式会社コルは、社会課題解決に取り組む人のハブとなり、様々な社会課題を解決することを目指しているソーシャルベンチャー企業です。そのため、ソーシャルグッドな人や活動を紹介するメディア「ソーシャルグッドCatalyst」や、様々な企業と提携した食のアップサイクルプロジェクト「アップフードプロジェクト」などの事業を手がけています。
ソーシャルグッドCatalystでは、社会課題やSDGsに関する情報・ニュースの発信、ソーシャルビジネスの事例・成功例の紹介、ソーシャルグッドな商品の販売などを行っています。
アップフードプロジェクトでは、食のアップサイクルに賛同した様々な企業と、アップサイクル商品の制作を行っています。コーヒーかすをスナック菓子にアップサイクルした「SOY CHIPS コーヒー&シュガー」や、牛乳パックをアップサイクルした栞、食べられなくなったお米から作った封筒「kome-kami」などを作成しています。また、廃棄されてしまう消防服をアップサイクルした商品も展開しています。
株式会社エコリング:徹底したリユースで廃棄物ゼロを目指す
株式会社エコリングは「リユースで世界をつなぐ」をコンセプトに、商品の買い取りと再販売を手がけている社会的企業です。顧客が不要になった物を買い取り、独自の技術でクリーニングを行うことでリユース可能な状態に仕上げ、エコリングの流通網にて販売を行っています。
他のブランド品買取店やフリーマーケットアプリと異なる点は、リユースによって大量生産・大量廃棄問題解決を解決することを企業の目的としている点です。環境問題や廃棄物問題を解決するため、どんなものでもなんでも買い取り、徹底的にリユースできるように手を加えています。また、貧困問題解決にも取り組んでいて、顧客が不要になった物を寄付として受け取り、リユースして販売し、収益を発展途上国への支援金に当てています。これらの事業活動から、日本のグローバル企業として初めてのB Corp認証を獲得しています。
株式会社ウェルモ:テクノロジーで医療や介護現場を支える
株式会社ウェルモは、「あたりまえの幸せを、すべての人へ」をビジョンに掲げて、テクノロジーを活用した介護や医療に関するソーシャルビジネスを展開している社会的企業です。ウェルモでは「利用者本位をケアテックで支える」ことをミッションとして定義していて、AIを用いた介護・医療支援サービスを得意としています。
「milmo plan」では、ケアマネージャーがより効率的に負担が少なく働けるようなケアプランを、AIを用いて作成しています。短時間でケアプランの下地を作ってくれるため、事務作業に割く時間を減らすことができます。
「milmo work」では、介護士の価値観にマッチする介護施設を、AIが分析し提案してくれます。事業者と介護士のミスマッチを減らすことで、介護現場の離職率低下に繋げています。
株式会社プラスロボ:気軽に介護現場をお手伝いできるサービスで、介護職員不足を解決する
株式会社プラスロボは、無資格・未経験の人でも可能な介護現場のお手伝いアルバイトを紹介するサービス「Sketter」を展開しているソーシャルベンチャー企業です。
介護の現場の人手不足は日本の社会問題となっていますが、その背景に「介護士が雑務に時間を取られ過ぎている」という現状があります。例えば、食事の配膳や片付け、毎週のレクリエーションの準備、シーツの交換や洋服の洗濯などです。これらの雑務は、介護士の資格がなくても行うことができますが、多くの人は介護関連の仕事は資格が必要だと思ってます。
そこでSketterでは、誰でも気軽にできる介護現場の仕事の一覧を紹介・斡旋しています。おばあちゃんとお話したり、交流会の準備をしたり、楽器を弾いたりしてあげることで、おじいちゃんやおばあちゃんたちからの感謝を感じつつ、社会貢献をしながらお金を貰うことができます。多くの人がすき間時間に介護の雑務を手伝うことで、介護を身近な社会問題として感じてもらうと共に、少子高齢化の社会で持続的な介護サービスの提供を目指しています。
株式会社マイスタースタジオ:ソーシャルグッドな商品と社会を良くするメディアを支援する
株式会社マイスタースタジオは、社会課題解決を目的としたアフィリエイトASP「ソーシャルグッドリンク」を展開している企業です。
社会を良くするためにソーシャルグッドな情報を発信しているメディアはたくさんありますが、それらはどれも収益化に課題を抱えています。有料の記事では多くの人に情報を届けられない、アフィリエイトでは社会に良い物ではない商品を紹介してしまうかもしれない、などの懸念があります。
また、ソーシャルグッドな商品を販売する企業は、商品の宣伝に費用をかけられないという問題を抱えています。ソーシャルビジネスは原価が高くなりがちのため、広告費までお金を回している余裕がないという現状があります。
そこでソーシャルグッドリンクでは、ソーシャルグッドな商品のみを集めたアフィリエイトASPサービスを展開しています。これにより、ソーシャルグッドなメディアは、ソーシャルグッドな商品のみを紹介しアフィリエイト報酬を獲得することができます。また、ASPは商品が売れた数だけ広告費を支払うシステムのため、ソーシャルグッドな商品を販売する企業も売れた分だけ広告費を支払えばよく安心です。さらに、売上の1%は社会課題解決に取り組む団体へと寄付される仕組みがあります。
まとめ:ソーシャルビジネスを行う企業はまだまだたくさんある
今回は、ソーシャルビジネスを行う日本の企業を11社紹介してきました。身近な社会問題から社会問題解決をしたいと考え、ソーシャルビジネスという手段を用いて起業するソーシャルアントレプレナーは近年増えつつあります。今後はより一層、社会的企業は増えていき、多くの成功例が生まれていくでしょう。
ソーシャルエッグでは、今回紹介したソーシャルビジネス企業の社員・代表へのインタビュー記事や、最新のソーシャルビジネス情報、ソーシャルビジネスとはどんな事業があるかなどをわかりやすく紹介しています。もしよろしければ、ぜひそちらもご覧ください。