中小企業診断士の資格を持つソーシャルビジネスの専門家!朝比奈信弘さんインタビュー

今回は、中小企業診断士の資格を持ちつつ、ソーシャルビジネス事業への支援・コンサルティングを手がけている朝比奈さんにインタビューを行いました。

  • 中小企業診断士に興味がある人
  • 非営利法人をビジネスからサポートしていきたい人
  • 非営利法人の事業運営について学びたい人

はぜひ読んでいただけたらと思います!

目次

プロフィール

【名前】
朝比奈 信弘

【年齢】
40歳(2023年5月現在)

【経歴】
凸版印刷株式会社 ⇒ 公益財団法人東京都中小企業振興公社を経て、独立。

一般社団法人ソーシャルビジネス・コンサルタントグループ理事、府中市市民活動センタープラッツ 専門家、Scalar株式会社 共同創業者(取締役COO)、西大井創業支援センター インキュベーションマネージャー、東京商工会議所 登録専門家、東京しごと財団 ソーシャルファーム支援事業専門家

【携わっている事業内容】
ソーシャルビジネスのアドバイザー・専門家
中小企業の補助金・助成金申請支援

ソーシャルビジネスに関心を持ち、中小企業診断士の資格を取った20代

下谷

本日はインタビューを受けて頂き、ありがとうございます。

朝比奈さんは中小企業診断士や多様な法人での活動・会社の起業など様々な事をされていらっしゃいますが、改めて経歴についてお聞かせして頂けますか?

朝比奈

はい、私は理系の大学を卒業した後、インダストリアルデザインと呼ばれる分野の大学院に進学しました。そこで工業デザインを学び、新卒で凸版印刷のデザイン部門に就職しました。

なので、学生時代は社会課題やビジネスについては、あまり触れてこなかったんですよね。

朝比奈

その後、新卒の会社でココ・ファーム・ワイナリーというワインの生産を行っている施設に取材に行った事が、私の人生に大きな影響を与えました。

ココ・ファーム・ワイナリーは、「『社会福祉法人 こころみる会』で障がいを持った方が一人前の農夫としてぶどうの生産を行い、それを有限会社ココ・ファーム・ワイナリーが仕入れワインに醸造し販売する」というビジネスモデルの会社です。

サミットの晩餐会に使われるほどの高品質なワインを生産しており、福祉品としてではなく上質なワインを求めて多くの方が購入しています。ワインの販売を通じて組織の本質的な目標である、障がいを持った方の自立の機会を創出している場となっています。

朝比奈

ここを取材した際に、非営利法人と営利法人両方の経営事情を知る事となり、ビジネスを通して社会的にこれだけ大きなインパクトを生み出すことができるんだと気付きました。この素晴らしい活動をどうにか支援したいと想い、帰り道に「資格」「勉強」などの検索を行った所、中小企業診断士という国家資格があるということを知りました。そこから3年間かけて、印刷会社で働きながら、中小企業診断士の資格を取得しました。

朝比奈

中小企業診断士の資格を取った後、東京都中小企業診断士協会の中にあるソーシャルビジネス研究会に入りました。

その後、仲間と共に東日本大震災の復興支援に行った際、足を骨折してしまい入院することになってしまって。しかし、結果的にその怪我が転機となって今後の人生を考え、公益財団法人への転職を決意しました。公益財団法人東京都中小企業振興公社で7年間、東京都の中小企業の支援を行い、2022年に独立しました。

中小企業診断士の資格は、様々な人に出会えるパスポートになる

下谷

少しお伺いさせて頂きたいのですが、中小企業診断士とはどのような資格なのでしょうか?また、この資格を持っていることでできることや、持っていて良かったことはありますか?

朝比奈

中小企業診断士の資格があるからできることって、一個もないです(笑)。ただ、中小企業診断士があることによって出会える人は無数に存在します。これがこの資格の良い所ですね。

いわゆるパスポートみたいなもので、この資格を持っている事で様々なチャレンジに乗り出すことができますね。

ソーシャルビジネス×中小企業診断士として行ってきた活動内容

下谷

ここからは、朝比奈さんが携われている各事業について、それぞれお伺いさせて頂ければと思います。

Scalar株式会社 共同創業 取締役COO

朝比奈

こちらは、大学の後輩で中小企業診断士の資格を持っているメンバーと創業した会社です。

朝比奈

多くの中小企業は補助金や助成金を活用する機会に恵まれています。一方で、補助金や助成金の申請方法って年々複雑化していて、申請作業に時間を割けない中小企業などは、中小企業診断士に計画書の策定や申請書作成を依頼することが多いです。

ただ、「年々公募要領の理解に必要な工数が増えている事」「補助金の種類や申請枠が増えている事」「専門家の相談時間が公募要領の説明になってしまっている」など、補助金・助成金には多くの課題があります。そこでScalarでは、全ての中小企業者が補助金・助成金の申請に自分でチャレンジできるような仕組みを開発・提供しています。

Scalar株式会社のメンバー

一般社団法人ソーシャルビジネス・コンサルタントグループ理事

朝比奈

ここでは、非営利団体の事業運営サポートや、ソーシャルビジネス事業のコンサルティングを行っています。金融機関や自治体の要請を受けて、非営利組織に対する各種相談対応をしています。

社会性の高い事業に関心の高いコンサルタントが集まっている組織になります。

西大井創業支援センター インキュベーションマネージャー

朝比奈

ここではインキュベーションマネージャーとして、起業家さんの伴走支援を行っています。

西大井創業支援センターは、入居者全員が起業家のコワーキングスペースです。やっぱり立ち上げ期ってどう事業を進めていけば良いのか分からないという悩みがあるので、月に1度入居者の方と、1on1で相談に乗っています。

西大井創業支援センターにて創業期の起業家に講演を行う様子

府中市市民活動センタープラッツ 専門家・東京商工会議所 登録専門家・東京しごと財団 ソーシャルファーム支援事業専門家

朝比奈

これらは全て専門家相談の一環として行っている仕事です。

行政は各地域の法人支援のため、専門家を派遣するサービスを持っています。私はソーシャルビジネスの専門家として各法人に赴き、マーケティング活動や事業計画の策定などを支援しています。

中小企業診断士たちが非営利法人へのサポートを行う、ソーシャルビジネス研究会とは?

下谷

朝比奈さんは、ソーシャルビジネスに関わる事業を本当にたくさん行われていますよね。これらは、どのような経緯で関わる事になったのでしょうか?

朝比奈

ほとんどは、ソーシャルビジネス研究会で知り合った方を通じて受けた仕事になります。これを説明する前に、まずソーシャルビジネス研究会の設立経緯について話した方が分かりやすいかと思います。 

朝比奈

まず中小企業診断士は、中小企業基本法という法律によって定義されている団体・法人に支援をするという資格です。ただ、特定非営利活動法人(NPO法人)はNPO法によって定義されている法人であるため、中小企業診断士の資格の管轄外となります。そのため、非営利活動に関わる中小企業診断士は少なく、中小企業だったら受けられる支援が非営利法人だと受けられないということが起きています。

朝比奈

ソーシャルビジネス研究会へ入会される方の多くは、非営利法人にも中小企業診断士の力を提供していこうという思いを持たれています。このような方達の力が集まることで様々な社会課題に対峙できますし、上記で紹介したような活動にも繋がっていると思います。

ソーシャルビジネス研究会での活動の様子

非営利法人が補助金頼りになりがちな理由

下谷

先ほどScalar株式会社の中で、補助金についての話がありました。非営利団体は補助金頼りになりがちと言われますが、なぜそのような事業形態に陥ってしまうのでしょうか?

朝比奈

原因は、補助金をもらう団体側と渡す行政・自治体の両者にあると思っています。

まず、そもそも非営利法人は受益者から対価を貰えない事業を行っていることが多く、事業の運営費を補助金・助成金に頼らざるをえないことは珍しくありません。しかし、その状態が長く続いてしまうと補助金を受け取ることが目的化してしまい、補助金なしでは事業運営が行えない体質になってしまうことが多々あります。

次に行政側の課題ですが、原資となるお金はあれど事業を支援するノウハウがありません。そのため、助成金の支援期間が終わった後、自力で稼ぐ力のない非営利法人は活動の継続が難しくなります。

朝比奈

補助金や助成金はあくまで自立に向けた一時的な活動に使うことが原則です。このお金を通してビジネスモデルを確立し、事業を維持できる状態に持っていき、今後10年20年と事業を継続していくことが大切です。

未来視点を持った事業の改善という点は、中小企業診断士が得意とする分野のため、私たちが行政と非営利法人の橋渡しとなり、補助金を用いた事業改善のお手伝いを行っています。

非営利法人を長続きさせるには、活動成果の見える化が大切

下谷

そういった理由があったんですね。逆に、長期的に続きやすい非営利団体の特徴は何かあったりしますか?

朝比奈

これは、「活動の成果を見える化ができているか」ですね。

営利組織でいう成功は、分かりやすく売上や利益なので、定量的な数字という形で成果が目に見えますよね。一方で非営利団体の成功の定義は、なかなか数字で推し量れないものです。事業の継続において一番大事なのはモチベーションなんですが、非営利団体は自分たちの活動が成果として見えずらい。“成功とはどんな状態なのか”を明確に定義し、そこに向かっていることを評価・見える化しておくことが、非営利団体でのモチベーション維持に繋がります。

下谷

見える化というと、数値としてということでしょうか?

朝比奈

数値でなくても良いと思います。例えば、「自分たちの事業によって1人の利用者さんから、心温まるお礼の手紙をもらった」みたいなことでもいいと思います。それは効果が目に見えていますよね。こうした利用者の声の可視化でも、事業の価値を多くの人に伝播できます。

成功の定義と成果の可視化、何をしたらどれだけの効果が出るのかというロジックモデルの確立。これがうまくできている団体は、収益以外のモチベーションを持って事業の継続ができますね。

下谷

収益が成り立っていなくても事業は継続できるんですか?

朝比奈

収益にも何種類かあるんですけど、一般的にソーシャル領域における事業収益の獲得は一般的なビジネスと比較すると難しいです。ただ、成果が見えていてロジックモデルが確立されていたら、非営利組織ならではの収益の一つである寄付の獲得には繋がります。費用と成果がロジカルに可視化されていれば、単なる寄付ではなく社会的な投資の色が強くなります。

朝比奈

社会的な投資をすることで、望ましい成果が出る事が論理的に見えているからこそ、寄付が貰えるんです。だからこそ、非営利活動法人の寄付金の獲得においても、成果の可視化は大事になってきます。

今後は経済的インパクトから、多くの社会的インパクトを生み出したい

下谷

朝比奈さんは今、様々なことをされていらっしゃいますが、今後やっていきたいことなどはありますか?

朝比奈

今はソーシャルビジネス支援という個人事業と、Scalarという会社の二輪を動かしているんですが、今後はこの二輪の融合を図っていきたいと考えています。

正直、ソーシャル一本で経済的成功を収めるのって難しいんですよ。ただ、経済的インパクトを生み出すことでより大きな社会的インパクトを生み出すことができるというのも事実としてあります。ゆえに、経済的インパクトをScalarの方で生み出し、その効果を社会的インパクトに還元する仕組みを作っていきたいと考えています。

下谷

それは、利益の一部をソーシャルに還元するということでしょうか?

朝比奈

ビル・ゲイツさんは自身の財団を持って、様々な社会課題に対して支援を行っていますよね。もちろんそういう方法もあると思いますが、個人的には人材の育成やオープンイノベーションなど、色んな還元方法を模索していきたいと思っています。

経済的インパクトを出しているからこそできる社会的インパクトもあるので、その両者をうまく融合させていきたいと考えています。

これからソーシャルビジネスを始めていきたい人へ

下谷

ここまでありがとうございました。最後に、これからソーシャルビジネスを始めていきたい人へ、アドバイスを頂けますか?

朝比奈

ソーシャルビジネスを立ち上げること自体に、すごく価値があることだと思っています。ただ、ソーシャルビジネスの成功の定義は、「スケール」だけではないことを覚えておいてもらいたいです。

朝比奈

特にこれからの時代を担う人たちに伝えたいのは、「憧れられてください」ということです。

ソーシャルアントレプレナーの方たちが憧れられれば憧れられるほど、自分もそうなりたいと思う人が増えるはずです。多くの人がソーシャルアントレプレナーを目指していけば、一つの一つの事業インパクトは小さくても、集まれば大きな力となって世の中は良い方向に変化していくと思います。ゆえに、先行するソーシャルアントレプレナーは、憧れられないといけないという責務があります。

朝比奈

だからこそ、ソーシャルビジネスに携わる方達は自分の事業に誇りを持って、否定的な感情に負けず、常に上を向いてください。ソーシャルビジネスに限らない話ですが、人やお金は笑顔の下に集まるものだと思います。

下谷

後続の道標になれるよう、常に明るく笑顔で憧れられる人を目指す。自分も実践していけるよう頑張ります!本日はありがとうございました!

まとめ:中小企業診断士からの非営利法人への携わり方

今回は、中小企業の補助金・助成金申請支援事業やソーシャルビジネスのアドバイザーを行う、朝比奈信弘さんにインタビューを行いました。

朝比奈さんは自身でソーシャルビジネスの会社を起業されるだけでなく、中小企業診断士の資格を活かして非営利法人の経営支援も行っています。補助金頼りではない、長期的に活動が続く非営利法人になるよう、経営戦略の策定や伴走支援を行っています。

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この記事の編集者

下谷 航希のアバター 下谷 航希 編集長

現在25歳。大学3年生の頃に子ども食堂の運営に携わり、社会貢献をしている人たちが大変な思いをしながら社会貢献活動をしていることを知る。その後、地方創生ツアーやメンタルケアアプリ制作などを行い、2023年に社会課題解決に尽力する人たちの課題を解決するメディア「ソーシャルエッグ」を立ち上げ。現在はソーシャルエッグのインタビューやメディア運営、学生へのソーシャルビジネス講座などを行っている。

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