ゲーム会社で障がい者を雇用する際に大切な考えとは?ワールド・ドリーム・スクールの森住直俊さんインタビュー

今回は、障がい者雇用支援としてゲーム制作クラスを開講したワールド・ドリーム・スクールの運営を行う、NPO法人オンザロードの森住さんにインタビューを行いました。

  • ゲーム会社にて障がい者と実務を行う方法を知りたい方
  • 障がい者を雇用しようと考えている方
  • ゲーム会社に就職したいと考えている障がいを持った方

はぜひ読んでいただけたらと思います!

目次

プロフィール

【名前】
WORLD DREAM SCHOOL Director
森住 直俊

【経歴】
大学3年時にNPO法人オンザロード代表「高橋歩」の本に影響され、世界一周の旅へ。その後、社会イノベーションに興味を持ち慶應義塾大学院 政策・メディア研究科社会イノベーターコースに進学。在学中「ワニック・プロジェクト」で第1回See-Dデザインコンテストで最優秀賞を獲得し、貧困地域での多くの雇用・教育支援事業に携わる。現在、WORLD DREAM SCHOOL Director、WAKUWORK FOUNDATION Co-Founder、慶應義塾大学非常勤講師を務める。

【ワールド・ドリーム・スクール事業内容】

ワールド・ドリーム・スクールでは、世界各国の逆境に立つ子ども・若者たちにオンライン学習環境と教育プログラムを提供することを通じて、自立に必要なスキル・マインドセットを習得する伴走するクラスを行う。日本では、重度の身体障がいがある若者が、自立するための選択肢として、フリーランサーとしての起業やゲーム会社就職につながるゲーム・CG開発スキルの習得を目指す。

学生時代の世界一周の経験から、社会課題解決の道へ

下谷

本日はよろしくお願い致します。

ではまず、森住さんのご経歴について軽くお伺いできますでしょうか?

森住

はい。僕自身は大学では元々、社会を変える仕組みについて研究をしていました。大学3年生の就活のタイミングで、自分は一体どういう社会課題を扱いたいのだろうと考えていたのですが、その答えはなかなか見つかりませんでした。そんな際、弊団体代表の高橋歩さんが世界一周した経験本に出会い、非常に強い影響受けました。

その後は、休学して一度世界を周っていました。インドのバラナシでは、ガンジス川に沐浴をして1週間お腹を下したこともありましたね(笑)

下谷

世界一周ですか!様々な地域を巡ったことで、森住さんの中に何か心境的な変化や気付きがあったのでしょうか?

森住

一方的な支援ではなく、現地の方と同じ立場に立ち、共にできることを行うことが大切」だと気付けたことが、世界一周で得た大きな気付きでしたね。

当時は、先進国にいる自分が途上国にある問題を解決してあげる、という少し上から目線な考えを持っていました。しかし実際に触れ合ってみると、現地の子ども達はとても高いモチベーションやハングリー精神を持っていて、それに驚いたのと同時に、彼らに強い可能性を感じました。そこで、現地の人々は自分がただ支援する対象ではなく、一緒にプロジェクトを行っていくパートナーなんだなと気付くことができました。

森住さんが世界一周でインドを訪れた際の様子
下谷

世界一周を終えた後は、どのようなことをされていたのでしょうか?

森住

日本に戻った後、当時慶應義塾大学の講師をされていた井上英之さんの講演会に参加しました。彼は日本に社会イノベーションや社会起業の概念をもたらした方で、彼の講演を聞いているうちに「なんてキラキラしていて面白そうな事をしているんだろう」と感動しました。そこで、彼のもとで勉強したいと思い、慶應義塾大学のSFCの修士課程に進学しました。

下谷

SFCというと、社会起業に携わる方が多い学部というイメージがありますね。

森住

そうですね、我々の先輩にはマザーハウスの山口さんや、NPO法人カタリバの今村さんがいらっしゃいますね。僕が進学するきっかけとなった井上先生は、SFCの中の社会イノベーターコースにいらっしゃったので、僕はそこで学びました。

その後、フィリピンのセブ島の逆境に立つ若者の自立を伴走する事業に参画し、コロナ禍をきっかけに、代表の高橋歩さんとご縁をいただき、NPO法人オンザロードにも参画し、現在の仕事を行っています。

「ゲーム制作×障がい者支援」のクラスが行われているワールド・ドリーム・スクールとは?

下谷

今回、ワールド・ドリーム・スクールにて「障がい者支援×ゲーム制作」のプレクラスを行ったという話を伺い、インタビューを行わせて頂きました。

「ゲーム制作×障がい者支援」のクラスは、NPO法人オンザロードが運営する「ワールド・ドリーム・スクール」の中で行われているのですよね。

森住

はい。NPO法人オンザロードは、インドのバラナシでの学校づくりから始まった支援団体です。震災支援復興を中心に現地での様々な活動を行ってきましたが、現在は主に『ワールド・ドリーム・スクール』という教育支援活動と、『TRUE BLUE』という海洋保全の活動を二軸で行なっております。

TRUE BLUE
WORLD DREAM SCHOOL
下谷

ワールド・ドリーム・スクールではどういった活動を行われているのでしょうか?

森住

ワールド・ドリーム・スクールは、世界中の逆境に立つ子ども・若者たちのための自立支援プロジェクトです。世界各地の貧困地域、難民キャンプ、紛争地にて、現地コーディネーター、一流の講師たちと協力し、オンラインを中心に様々な講座を開講しています。

森住

ワールド・ドリーム・スクールではこれまで多くの地域で活動を展開してきましたが、ただ勉強を教えるだけではなく、竹・籐細工クラスやITクラスなど、実際の生徒の就労に繋がるよう、その地域のニーズや社会状況に合ったクラスを開講しています。

障がい者の雇用支援として、ゲーム制作を選んだ理由とは?

下谷

ありがとうございます。

様々なクラスがある中で、なぜ今回「障がい者支援×ゲーム制作」のクラスを始められたのでしょうか?

森住

私たちはワールド・ドリーム・スクールを立ち上げてから日本ではどんな活動ができるのかをずっと考えていました。そんな中、ワールド・ドリーム・スクールのコーディネータの加藤さくらさんを通じて、ご縁をいただいた北海道医療センターの方々とオンラインでお話しをする機会があり、そこで重度身体障がいを持つ若者の方々とお話しさせていただきました。

その際に、障がいを持つ方のゲームクリエイターになりたい!という夢と、ハンディキャップを感じさせない力に気付き、障がい者の方々の夢の伴走を行おうと決めました。

下谷

なるほど。障がいを持った方を支援しようと思った中で、解決策としてゲーム制作という手段を選んだ理由を教えて頂けますか?

森住

北海道医療センターにて、重度身体障がいを持った方とお話したことがきっかけです。

元々、重度身体障がいの方は自分で体を動かしてスポーツをすることが難しい状況にあるので、代わりにゲームを楽しまれている方が多いそうです。我々がご協力いただいた北海道医療センターも、元々ゲームをできる環境がとても整っている背景があり、お話を伺った方もゲームが好きで、ゲームクリエイターになりたいという夢をもっておられました。

その方は、高校卒業のタイミングで就職活動を行い、何社かゲーム会社の求人を受けたそうですが、メールを送っても9社中1社しか返信がない、返信が来た1社も病院に居る障がい者の中途採用は難しいという答えだったそうです。契約社員として採用されることも難しかったそうです。

森住

ワールド・ドリーム・スクールでは、どんな環境にいる人でも夢と希望を持ち、自立に向かって一歩を踏み出せる社会を目指しています。そのため、障がいを持つ方が少しでも夢に近付くお手伝いをしたいと思い、「障がい者支援xゲーム制作」のプレクラスをスタートしました。

生徒ひとりひとりの希望と現状に合わせた講座で、障がい者の力と可能性を伸ばす

下谷

プレクラスの生徒さんには、どういった障がいを持たれた方がいらっしゃったのでしょうか?

森住

プレクラスには、筋ジストロフィーやSMA(脊髄性筋萎縮症)というような、重度身体障がいを持った方々が参加されました。

筋ジストロフィーとは
骨格筋の壊死・再生を主病変とする遺伝性筋疾患の総称。症状は、骨格筋障がいによる運動機能低下が主なものだが、拘縮・変形、呼吸機能障がい、心筋障がい、嚥下機能障がい、消化管症状、骨代謝障がい、内分泌代謝障がい、眼症状、難聴、中枢神経障がい等の様々な機能障がいや合併症を伴い、疾患ごとの特徴がある。有病率は人口10万人当たり17-20人程度。

脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy: SMA)とは
脊髄の運動ニューロン(脊髄前角細胞)の病変によって起こる神経原性筋萎縮症のこと。体幹や四肢の筋力低下と筋萎縮を示し、深部腱反射の減弱・消失が見られる。生後半年までに発症するとされるI型では哺乳困難、嚥下困難、呼吸不全を伴い、人工呼吸器を用いない場合の死亡年齢は平均6〜9カ月、95%は18カ月までに死亡すると言われている。有病率は10万人あたり1〜2人、発生率は出生2万人に対して1人前後。

下谷

プレクラスではどのような講座をされたのですか?

森住

まず、生徒さんにどのようなことを教わりたいかを伺いました。その要件から、インディーゲームクリエイターの嶋津 恒彦さんにプレクラスの講師になって頂きました。

嶋津恒彦さん
「誰でもゲームを作れる世の中に」を目指しUnityインストラクターとして活動中。YouTube 登録者1万人。ゲーム開発オンラインサロンオーナー。インディーゲームクリエイター。

森住

嶋津さんは、先ほど話にあったゲームクリエイターになりたい夢をもつ方に「だれに先生になって欲しいか?」と聞いた時に、真っ先に名前が上がった方で、全くつながりがない中メールさせていただいたところ、クラスの趣旨に共感してくださり、講師を引き受けてくださいました。

プレクラスでは、講師と生徒の1対1で、どんなゲームが好きなのか、どんなゲームを作りたいのかを相談しながら、希望と現状のレベルを判断して作るゲームの内容を決めていきました

下谷

プレクラスの期間(3ヶ月)でゲームをゼロから作るとなるとかなり大変だと思うのですが、ゲームのプログラミングやアートも障がい者の方が行ったのですか?

森住

はい。生徒さんにはゲームエンジンのUnityを習得してもらい、そこでゲームを制作していきました。元々ゲーム作成に興味があった方は、オンライン同時対戦ができるゲームも作っていましたし、中には作ったゲームをAndroidアプリとしてリリースすることを考えている方もいらっしゃいましたね。

森住

この講座を始める前はゲーム開発の経験がないので、本当に3ヶ月でゲームが完成するのかなど色々な不安がありました。しかし、生徒さんの頑張りが想像以上で、たくさんのゲームを完成させることができました。

また、今回1本ゲームを完成しきることで、「自分でもゲームが作れるんだ」という大きな自信に繋がったのではないかと思っております。

森住

さらに、プレクラスの後にゲーム会社に中途転職を決めた生徒さんも生まれ、障がいを持った方のキャリアアップに繋がっていると感じています。

今回、プレクラスの最後に振り返りを行い、生徒さんのやりたいことやニーズが明確に分かったので、それを本クラスに活かしていきたいと考えています。

ゲーム会社で障がい者の方と一緒に働く際に大切な事

下谷

ありがとうございます。

ここからは、実際に障がいのある方とゲーム会社で働く際に大切なことを伺っていきたいです。まず大前提として、障がいのある方がゲーム制作の仕事に携わることは可能なのでしょうか?

森住

はい。本クラスで、CGクラスの講師を担当していただく、重度身体障がいがありながら実際にCGクリエイターとして活躍されている杉本 大地さんの話では、障がいがある方がゲーム制作に携わることはできるとのことです。

プレクラスの生徒さんも障がいをものともせずに楽しくゲームを作られていました。障がい者の方々が仕事をすることは難しいという考えは、我々の勝手な先入観でしかないのだと思います。

下谷

障がいを抱えた人を雇用するための専門の会社(特例子会社)も存在しますよね。

今回のクラスを受講した方は、そういったゲーム会社の特例子会社で就業することを目指しているのでしょうか?それとも、通常のゲーム会社で他の社員と同じように正社員として働く事を目指しているのでしょうか?

特例子会社とは
障がい者雇用の促進と安定を図るため、障がい者の雇用において特別の配慮をする子会社のこと。障がいに対する配慮も一般企業より手厚いことから、定着率が高い傾向にある。特例子会社の数は2023年時点で319社。特例子会社になるためには、一定要件を満たし、厚生労働大臣から認定を受けることが必要。

森住

我々は、特例子会社の中でデバッガーの仕事に就いてもらうことが、夢へのファーストステップになるのではないか と考えています。

特例子会社では、デバッグの仕事以外にも障がい者の方の希望や特徴に合った職種に就くことができます。そこで、まずは契約社員としてでも自分たちにできる仕事から始めて、できることを増やしていき、最終的に正社員として希望する職種に就けるルートがひとつの理想のパターンだと考えています。

森住

障がいを持った方が希望する職種に就けるようにするためにも、ワールド・ドリーム・スクールでは特例子会社との連携も行なっています。障がい者を雇用する側の立場から、どういったスキルがあればゲーム会社への就業に繋がるのか、求人の見つけ方、障がいを持ちながら働く方法などを伺い、クラスの内容を共に設計しています。

下谷

障がい者の方がゲーム業界に入っていく際には、どういった難点があるのでしょうか?

森住

障がい者ご本人が行う仕事に問題がないとはいえ、ゲーム会社もご本人もお互いにお互いのことがよくわからないという難点があるとおもいます。

杉本さんのお話によると、自身が作った作品をSNSで発信し続けることで仕事がいただけるようなこともあるようなので、発信をし続けていくことがとても大切だと考えています。

下谷

なるほど。仕事の場面において、僕たちが障がいを持つ方とどう付き合っていくことが大切だとお考えでしょうか?

森住

私自身は、実際に仕事をご一緒したことはないのですが、クラスや実際に北海道医療センターに訪問したことを通じて、「周りが気にしすぎている」ように感じました。

このクラスのきっかけになった、前回のクラスに参加された方とお話ししていても、夢やそれにかける努力はとてもパワフルだと感じました。ケアが必要なところはもちろんあると思いますが、同じ仲間として一緒につくっていく姿勢が大切なように感じております。

ゲーム制作を教えることで拓く、障がい者雇用の未来

下谷

では最後に、2024年2月から行われる本クラスの内容について伺わせていただけますか?

森住

本クラスでは、2つのクラスを開講予定です。1つ目は、嶋津さんに講師をしていただくUnityクラス。2つ目は、3Dアーティストの杉本大地さんを新たに講師にお招きしたCGクラスです。

先程お伝えしたように、杉本さんは自身も障がいを抱えていらっしゃる方なので、クリエイターとしての技能以外にも、キャリア教育として彼がどのようにキャリアを積んできたのかを、クラスで共有していただきたいと考えています。

CGクリエイターの杉本 大地さん
下谷

ゲーム制作以外にも、障がいを抱えた方ご本人がどうキャリアを積んでいるのかを、実際に聞けるのはすごく良いですね。

森住

はい。これら2つの講座はオンラインなので、日本全国色々なところからお申し込みが可能です。

WORLD DREAM SCHOOL
ゲーム&CGクリエーター育成クラス 重度身体障害を持つ若者の皆様対象に無料のゲーム&CGクリエーター育成クラスを実施します!
下谷

今後は障がいを抱えた方のゲーム制作キャリア支援を引き続き行われていくのでしょうか?

森住

そうですね。やはり活動の名前がワールド・ドリーム・スクールなので、この活動を世界に展開していきたいという思いがあります。

森住

日本の北海道から始まったこのゲームクラスは、実は世界からの注目度が高く、日本語で発信したのにも関わらず、海外の方から参加についてご連絡をいただいております。

第1回のプレクラスは北海道で行い、来年1月の講座では日本全国から参加可能なオンラインで行います。しかしそれだけではなく、ゲーム制作大国の日本の力を活かし、日本から始まったこのゲームクラスを国内外関わらず世界中の障がいを持つ多くの方にも受けてもらい、この活動を広げていきたいと考えています。

まとめ:どんな逆境にいる人でも、それぞれに合った支援で夢を叶えられる

今回は、世界中の逆境に立つ若者の夢を応援するワールド・ドリーム・スクールの運営を行うNPO法人オンザロードの森住さんにインタビューを行いました。

障がい者雇用の意外な実態を知り、とても驚きました。貧困地域にいる子ども達や障がいを持つ方々を可哀想と捉える方もいらっしゃいますが、森住さんはどんな人であっても夢を叶える可能性は秘められていると仰っていました。こうした方々をただ助ける・守るのではなく、彼らの夢を応援していけるような活動をしていきたいと感じました。

ソーシャルエッグでは他にも、社会に良い事業やソーシャルグッドな活動を行っている人のインタビュー記事が他にもたくさん用意しています。社会に良い事に興味がある方は、ぜひ他の記事も読んでみて下さいね!

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この記事の編集者

下谷 航希のアバター 下谷 航希 編集長

現在25歳。大学3年生の頃に子ども食堂の運営に携わり、社会貢献をしている人たちが大変な思いをしながら社会貢献活動をしていることを知る。その後、地方創生ツアーやメンタルケアアプリ制作などを行い、2023年に社会課題解決に尽力する人たちの課題を解決するメディア「ソーシャルエッグ」を立ち上げ。現在はソーシャルエッグのインタビューやメディア運営、学生へのソーシャルビジネス講座などを行っている。

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